Book Maniacs

Let It Be ... Naked

The Beatles
2003

03/12/5
長くなることをお許し下さい

 

本来ここはブックコーナーで、私のところにはディスクをレビューするコーナーがない。でも、ことはビートルズだ。例外だ。緊急を要する。どこかに紛れ込ませて書き込むしかない。

というわけで、ブックコーナーに無理やりCDレビューをするのだ。

ビートルズの中でも「レット・イット・ビー」だ。あの伝説のアルバムが、この2003年において蘇ったというのだ。迷っている暇はない。おおごとだ。一大事だ。この椿事を騒がないでどうするか。

しかしそれにしても、あの宇宙戦艦ヤマトを指揮した沖田艦長のように「なつかしい、何もかもがみな…」と呟かないではいられない。そして涙する。
蘇った「レット・イット・ビー」の響きに。「ロング・アンド・ワインディング・ロード」の長い道のりに。

 

なぜもっと早く出なかったのだろう、という思いもあるし、今まで出ることはないだろう、と思い込んでいた、ということもある。

発表当初からアルバム「レット・イット・ビー」は問題が多く、映画が公開されてすぐにその音源を取った、アルバムの海賊盤もわんさかと発売された。
(アルバムには収録されていない曲が、映画では数多く演奏されていたからだ。)

その後、Unsurpassed Masters というセッション風景の海賊CDが発売され、慌てたビートルズ側が正式にセッションCDを発売するという経緯もあった。

そうした中で、ファンは「レット・イット・ビー」のいろいろなバージョンが存在することを知り、また公になった音源で、その音を実際聞いて来たのだった。

しかし、「アクロス・ザ・ユニバース」ひとつを取っても、正規のアルバムバージョン、バードバージョン(と呼ばれるセッション音源)双方とも私は気に入らなかった。他のファンも同じ気持ちだっただろう。よけいな音が入っていて、もっとピュアな演奏で聞きたい、と思っていたはずだ。

この「ネイキッド」は、そうした長年のファンの望みをかなえるという形で世に出た。

 

思えば、「レット・イット・ビー」はビートルズのアルバムの中で、メタメタに酷評され続けて来たのだった。ビートルズのアルバムといえば、それまでどれも最大級の評価を受けて来たのに、まったくもって例外的なことだ。酷評された唯一のアルバム、と言ってもいいのではないか。

当時分裂直前だったビートルズのセッションの録音がどうしてもうまくいかず、お蔵入りになり、あとで録音された「アビーロード」の方が先に発売されたのに、そのアルバムはまだ発売される気配がなかった。

初めはゲットバックと題されていたそのアルバムは、しかし契約によって映画が公開される時に同時発売されることになり、急遽体勢を整えて何とか発売にこぎつけたものだった。

ポールが既に脱退宣言をしていた。困ったジョンがプロデューサー、フィル・スペクターを呼んで来てゲットバックの再プロデュースを頼み、そうして出来上がったのが、スペクター節のサウンドで構築された「レット・イット・ビー」だ。

スペクターは自分なりに、自分流のビートルズを築いたのだろう。今思えば、それはそれで彼は努力したということなのだろう。
しかし、その時、ファンは、なぜこんなにごてごてにしてしまうのか、しかも切り売りのように中途半端な音があちこちに…。
それに怒りを感じないではいられなかった。

なぜジョンとジョージがあの音にゴーサインを出したのか、いわんや気に入ってさえいたのか、皆目理解出来ないのだった。

 

現在、ジョンとジョージは死に、フィル・スペクターは殺人罪で告訴された。

というわけでなのだろうか、「レット・イット・ビー」がネイキッドとして蘇ったのは。

しかし理由はどんなことでもいい。

あのころ夢見た音源が、今ここにある。
あのころ耳の奥に描いていた、こうであろう理想の音が、今ここにあるのだ。それを喜ぼう。

あのころフィル・スペクターを恨んでいた私たち。しかし、こうして「レット・イット・ビー」を2度聞ける機会を与えてくれたことに対して、むしろ彼に感謝しても良いのかもしれない。

 

あのころ「レット・イット・ビー」はやたらに良く聞いていた。今は聞けない。涙が出て来るから。

意外だが、何もかも変わった、という感じではない。だって音源は同じなのだから。だから、あのころ聞いた感動と、同じ感動が蘇る。

もちろんジョンのわけの分からないお喋りや、MCがなくなってしまったことは少し悲しいけれども。
でもきっと、この音ならオーディションに合格だろう。*

*ビートルズファンにしか分からないくすぐり

 

***

 

ファンなら当然のことかもしれない。

ごく自然に、もとの「レット・イット・ビー」と聞きくらべということをやってしまった。

あのアルバムは、求心力に欠け、曲がばらばらという印象があった。けれども私は、好きだった。あの、「レット・イット・ビー」(曲)の中の、ポールのピアノのミスタッチでさえ。

私は「レット・イット・ビー」(曲)の間奏がオルガンではなく、ジョージのギターで演奏されるバージョンが好きだった。確かアルバムがギターでシングルがオルガンだ(記憶違いかもしれない)。

だから「レット・イット・ビー」(曲)に関しては、アルバムバージョンが何を置いても好きだった。どれだけ聞きたおしたことだろう。だから何もかもが好きだった。ラストコーラスでのリンゴのドラムにはしびれた。

今回のバージョンにはそのドラムはなくなっている。
間奏はアルバムとは別のギターソロ。そして、あのミスタッチはなくなってしまった。ポールは30年間、あのミスタッチが気になっていたのかもしれない。あれだけは残しておいて欲しかったのだが。
ミスだらけのもと「レット・イット・ビー」の記念として。

こんな事をいいたくなるのは、きっと私があのアルバムに対してとても感傷的な気持ちを持っているからなのだろう。

でも、それでも意外にがっかりしたわけではない。
まったく新しい、もうひとつの「レット・イット・ビー」(曲)を新たにビートルズが演奏してくれている、ように思った。

30年ぶりの、新しい演奏だ。

 

CDショップには国内盤と輸入盤があって、輸入盤は1000円以上安かった。でも、歌詞の日本語訳と、日本語解説が付いているので国内版を買った。
その国内盤に、このセッションをしていた時、ビートルズの4人は、それぞれ28歳、26歳、25歳だったと書いてあった。

そうだ…、彼らはこのときまだ20代だった。信じられないことに。

絶頂期、そしてそんな若さで頂点を究め、そしてそんな若さでビートルズを解散させた。そんな4人だったのだ。

それを思ってまた涙した。

 

***

 

ところで、非常にショックなことがあった。

レコード屋というか、CDショップで、この「レット・イット・ビー ネイキッド」のプロモーション・ビデオを流していた。

それはまさしく、あの映画「レット・イット・ビー」なのだった!

なぜ「!」(エクスクラメーションマーク)なのか。それはあの映画がビデオ化されていないからだ。

未だに一度もビデオにもDVDにもなったことがないはずだ。もう、30年以上も、映像になっていないはずなのだ。

一度テレビのゴールデンタイムで放映されたことがあったような気はする。その後、深夜でもう一度放映があった。その時から以降、あの映画「レット・イット・ビー」は、映像化を封印されたはずなのだ。

それなのに、あまりにも何気なくプロモーション・ビデオが!
もしかして、あの映画のDVD化が近いのか?

それなら限りなく嬉しいニュースなのだが…。

 

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