吸血鬼
The Fearless Vampire Killers
1967年 アメリカ映画
監督 ロマン・ポランスキー
主演 ジャック・マッゴーラン シャロン・テイト ロマン・ポランスキー
14/1/17
題名からすると、おどろおどろしい映画を想像するが、これは吸血鬼映画の一種のパロディで、コメディ映画である。
その証拠に、MGM映画のタイトルのライオンが吠えるマークが映ったあと、ライオンが一瞬にして吸血鬼のアニメに変る。こんなタイトル・オープニングはMGM映画でも珍しかった。
原題は「恐れを知らない吸血鬼殺したち」。
ポーランドの監督、ロマン・ポランスキーがハリウッドへ行って撮った最初の作品である。
ポランスキーは、有名なシャロン・テート殺人事件、そしてその後幼女との姦淫によってスキャンダルに見まわれ、ハリウッドを追われ、不運な人生を歩んでいるが、作る映画はすぐれていて、巨匠扱いもされ、賞をもらった映画も多い。
この作品はシャロンとの出会いの作品であり、プロダクション・デザイン、ロケーション、装置とも見事な完成度を見せていて、単に吸血鬼パロディに留まらぬ作品に仕上げている。
撮影はダグラス・スローカム、東欧トランシルバニア(?)の冬の田舎風景を見事に描写していた。
19世紀。冬。
吸血鬼研究家の元大学教授、アブロンシウスは、頼りない助手のアルフレッドを連れて、吸血鬼伝説がある、さるトランシルバニアの田舎にやってくる。
宿にはニンニクのお守りが、宿の主人はしかし何も言おうとしない。
宿の娘サラは美人でアルフレッドはいきなりボーっとなる。
モンスターは、夜早速やって来た。
それはこの付近を支配している貴族、フォン・クロロック伯爵だった。(ドラキュラではない)
彼はサラに噛み付き、彼女を城へさらって行ってしまった。
娘を帰してくれと嘆く宿の主人。
伯爵はこの村の領主、だから人々は口をつぐみ、逆らえないのだ。
教授と助手は、救出と吸血鬼退治のため城へ向う。
屋根つたいによたよたとしのび込む二人。
しかし、意外と城内では歓待される。クロロック伯爵の息子がホモで、アルフレッドに興味津々なのだ。
城では舞踏会が開かれることになっていた。
招待されているのは、すべて墓の中の死人たち。
その夜、墓の中からぞろぞろと城へと向うヴァンパイアたち。
宿の娘サラは、城に幽閉されていたが、舞踏会を楽しみにしている。
その舞踏会に、何食わぬ顔で出席する教授と助手。
だが、城の大広間にあった大鏡に映るのは教授と助手とサラだけ。
バンパイアたちは大騒ぎで彼ら人間を掴まえようとパニックになるが、危うい所で奥の手を使って逃亡に成功する教授たち。
近くにあった棒きれを十字のかたちにし、彼らの前に示したのだ。
3人は、そりに乗って城から逃げ出した。
安全な所まで来て、やっとめでたしめでたし…が?
頼りない助手役にポランスキー自身が扮していて、達者なところを見せている。彼は演技も出来、舞台に立ったこともある。
シャロン・テートは頭の軽い娘を好演していて美しいが、のち惨殺されたことを思うと複雑になる。これがほとんど唯一の代表作と言っていい。
はじめに言ったようにこの映画はコメディなので、スローカムの古めかしい、古色溢れるカメラと見事なプロダクション・デザインの中で繰広げられるどたばたが、独特の雰囲気を作り出している。
コメディと言ってもディテールに手を抜いていないのだ。
19世紀の東欧の、片田舎の風俗が綿密によく再現されている。
村の組織と、そこを支配する城の持ち主の伯爵との関係も、良く考えられている。
村の人々は、領主のすることに抵抗出来ない。
だから伯爵がバンパイアであっても、その一族を退治することが出来ないのである。
教授が、バンパイアの研究に没頭するあまり、大学からキチガイ扱いされているのはおかしい。
彼はかなりの老人で、助手はおっかなびっくりの頼りなさだから、そんなふたりがバンパイアを果して退治出来るのか、というスリルものんびりしたものである。
だが教授の研究は実は当を得ていて、バンパイアは何と実在した。
吸血鬼たちのパーティーはかなりの不気味さがある。
笑いと恐怖の交ざり具合が絶妙なのだ。
クライマックスの舞踏会での立ち回りシーンは見事で、ドキドキする。
ポランスキーお得意の屋根の上でのスリルシーンもある。
そしてシャロンのお色気シーンもあるが、ポランスキーとのキスシーンは、これは監督の特権だろう。
そして、古城という閉ざされた世界での出来事は、ポランスキーの閉所好みを現わしていて興味深い。
ポランスキーは、閉ざされた場でのサスペンスが得意なのだ。
私はこの映画が大好きで、映画館でも見たしビデオでも何度も良く見た。
孤立した、雪の古城の雰囲気は、普通の吸血鬼映画をはるかに凌ぐ。
また吸血鬼を、ドラキュラのような恐怖映画のステレオタイプのモンスターとしてではなく、土着の、古い言い伝えから造形しているところが、この作品を単なるパロディではない、鋭くすぐれた吸血鬼映画にしていると思う。
東欧生まれのポランスキーの所以だろうか。
ポランスキーの溢れる才能に驚かされ、多いに期待した。
この映画は日本では「ローズマリーの赤ちゃん」(68)のあとに公開された。
私は見ていないが、「ローズマリー」はまさにポランスキーの閉所趣味が全開したサスペンスホラーになった。
そのあと、惨殺事件が起きたのはまことに不幸なことだったが、その後幼女姦淫の疑いをかけられたことは彼の汚点となった。
その事件を克服し、幾つもの秀作を発表しつづけているポランスキーは強かだとは思う。
彼は、自分の映画の主演女優と必ず良い仲になることでも知られる。女にもてるのだろう。
この映画は、タイトルロールも凝っていて、面白い。
笑いと恐怖を同時に楽しめる、2倍面白い映画だ。
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