Figureskating Superstars

トリノ・オリンピック まとめ 男子シングル


男子シングルをまとめてみよう。

ロシアのエフゲニー・プルシェンコ選手が本命中の本命で金メダル確実と言われ、なおかつその通りにショート、フリーとも1位の完全優勝を遂げた。

これは、オリンピック前から言われていたように、他に適当な選手がいなくて、小物ばかりだったからしょうがない。

プルの圧勝が目立った分、今後の男子に彼に匹敵する選手が出るのか、少し不安になった男子でもあった。

 

ショートプログラム

プルシェンコ選手が「トスカ」で、めちゃくちゃなステップを踏んで我々の度肝を抜いた。のちにキモステップとか変態ステップなどと名づけられた。
ショートプログラムで笑いを取った選手はオリンピック史上初めてであろう。

ただしジャンプは4-3、ステップからのルッツ、アクセルをちゃんと飛んでいる。

2位につけたのは少女系のジョニー・ウィアーで、サンサーンスの「白鳥」を「踊った」。
バイウル狂らしいプロである。
ジョニーの少女キャラに良く合っていて、ナルシーなところは気持悪い人には気持悪いだろうが、私も気持悪かった。でもそういうところがジョニー。

あとのショートプログラムは忘れた。

ただ、カナダのエマニエル・サンデュが大方の予想通り自滅して、悲惨な状況になった。
調子がよければメダル圏内、との見方もあったので、残念というか、笑えたというか。
「調子がよければ」と枕詞が振られる選手は、調子が良かったことの方が少ない。せっかく4-3などの技を持ちながら、典型的な宝の持ち腐れ選手である。
もっとも私個人としては、サンデュが大嫌いなので、あまり上位に来て欲しくない。

あと、日本の高橋選手。

高橋選手の今期のプログラムはショート、フリーとも見応えがあり、見ているうちにどんどん好きになっていく。
もちろんニコライ・モロゾフ氏の振り付けのおかげだろうけれど、それを良く表現していると思う。

ジャンプをいくつかステップアウトし5位になったが、エモーショナルなステップシークエンスなど、とてもよいショートだった。
また、1番滑走でプルシェンコ選手の直前、という滑走順が笑わせてくれた。

 

フリー

録画しただけで、まだあまり演技を見ていないので記憶だけで書くと、最終グループまでの選手で印象的だったのはライザチェック。

4回転はない選手だが、ほぼノーミスで演技をし、フィニッシュでは感激にむせんでいた。
彼は確かアメリカの選手で、特別な特徴はないが律儀で真面目な印象。エルドリッジ風味であった。
だが、こういう特徴のない選手は、好感度はあるものの、あまり私の趣味ではない。私はどこかアブノーマルな方が好きなのだ。

で、エマニエル・サンデュ。いや、私はこの選手が大嫌いだった。

始めて見たのはグランプリシリーズだが、とにかく顔が気持ち悪い。スタイルが気持ち悪い(顔が大きいわりに体が細い。バランスが悪い)。
音楽が気持ち悪い。振り付けが気持ち悪い。演技が気持ち悪い。

と、あまりにも気持ちが悪くて忘れられなくなり、大変困っている。

しかも、嫌いだからオリンピックでは大失敗をしてくれと思っていたら本当に大失敗をした。
フリーでも失敗しまくって、結局13位だったが、グランプリでは表彰台に昇っていたから、本来なら入賞も出来るランクの逸材だったのだろう。

彼のプログラムはモダンミュージックのような変わった曲を使っていて、ちっとも盛り上らない、不思議な曲である。私はフィギュアのプロの曲だとクラシック風の、壮大な曲が好きなので、あの曲では乗れないのだ。

しかも、サンデュは不思議な曲なのにその曲のリズムに合った演技をする。
それがますます気持ち悪い。リズム感があるだけに、なお気持ち悪い。

上半身を折り曲げるスピンをしていたが、それも気持ち悪い。とにかく気持ちの悪い選手だ。

フリーでは失敗してますます??なプログラムになったが、そのせいか気持ち悪さが今いち発揮されていなかったのは残念だ。

大嫌いなので、忘れてしまいたいのだが忘れられない。

 

最終グループはプルシェンコ選手が第1滑走。

4-3-2を手早く決め、トリプルアクセルを2回成功させると、あとのジャンプはザヤックルールに抵触しないセカンドダブルジャンプで済ませ、眠りながら演技した。
終盤のフリップがダブルになったあと目が覚めてストレートラインでキモステップを踏んだ。

この「ゴッドファーザー」のプロで、見所は最後のポーズだった。

一般の視聴者には不評だったが、本来は(ロシア杯では)両手を水平に広げて十字の形になるのが最後の決めのポーズだった。
けれどもトリノではあのとおり、力の抜けたようなポーズ。

私はしかし、あのポーズこそに、ソルトレイクから4年間、見えないものと戦い続けて来たプルシェンコの苦しみと、それから解放された安堵と、勝利の喜びと、…それらの様々なものがそこに凝縮されていたような気がして、ちょっと感動してしまったのだった。泣いたかもしれない。

長かったよな。4年間。
4年間このクオリティを維持していくのは尋常な努力ではなかっただろう。おめでとう、プル。

…まあ本当は眠りながら演技をしていたわけではないことくらい、分かっている。彼なりに一杯一杯だっただろう。でも、余裕をかましているフリをして…たんだよな…

 

ブライアン・ジュベールという選手は、顔は大変ハンサムだが、体つきが野暮ったい。衣裳もフランス人だというのにセンスが悪い。
振り付けがヤグディンの氷かきステップの真似をしていて野暮ったい。
一番変なのは、顔が無表情なので、フィニッシュの時、喜んでいるのか、演技が良くなくてがっかりしているのか、全然分からないことだ。
もっと感情表現が豊かになればいいのかもしれないが…。ハンサム好きの期待を悉く裏切るショボ選手だったわりに、6位になった。

 

スイスのランビエール選手はプルシェンコについで4-3-2を決め、スピンが素晴らしく、いくつか失敗があったが予想通り銀メダルをもらい、表彰台で感激して泣いていたのが可愛かった。

ルックスに田舎のお兄ちゃん的素朴さがあり、衣裳は田舎っぽく野暮ったいのだが、人柄の良さで好感の持てる選手だった。
でも私はこういう好感度抜群の選手はあまり記憶に残らないのだ。

 

ジェフリー・バトルはスケーティングのきれいな選手で甘いマスクで日本でも人気があるが、私はこのような基本的なハンサムも趣味ではない。

バトルの今回の演技の見所は、4回転の転倒で素早く立ち上がったところだった。
4回転で尻もちをついた選手で、あんなに早く立ち上がった選手を見たことがない。
おそらく転倒から立ち上がる練習を何度もしていたのだろう。
4回転の練習そのものよりも多く練習しているに違いない。プルシェンコ選手に次いで笑える場面であった。銅メダル。

 

ジョニー・ウィアーは、パラベラ会場に行くバスに乗り遅れてしまい、心の準備が出来ないままフリーを滑ったそうだ。そのせいで調子が出ず5位になったが、あの演技で5位は良すぎるかも。

NHK杯で滑って日本のファンの人気爆発のきっかけになった「秋に寄せて」という縁起のよいプログラムだったが、ジャンプをひとつまるまる抜かしたり、さんざんの出来。
しかしジョニーにはこのまま4回転など挑戦せず、キモ少女路線を突き進んで欲しい。
ただオールバックは止めた方が…、ボイタノの二の舞になったらどうする。
エキジビションでは、実は体のラインも良くないことを露呈してしまった。

 

高橋大輔選手は最終滑走という、またも笑える順番。

4回転の失敗は想定内だが、次のトリプルアクセルのコンビが決まらず単体になり、ここで焦った。
3ルッツ-3トウのあともう1度3アクセルにトライし、セカンドに無理矢理3トウをつけた。
次にルッツを単独で飛び、これがあえなくザヤックルールに引っかかり、ノーカウントに。

ルッツからのコンボは、予定では3-2-2(ループ)だったという。ここのセカンドを3トウにしたなら、アクセルのセカンドは2トウにするべきだったのだ。でも、演技中に、しかも焦っている時に頭が真っ白になったのだろう。

焦っていたのはサーキュラーステップで棒立ちになってしまったり、最後のスピンが回転不足(規定回数回っていない)だったりしたことにも表れていたが、ショートのところでも言ったとおり、このフリーのプロもモロゾフ振り付けの、とても良いプロだ。
ラフマニノフの2番で、ストレートラインは高橋選手の良いところを存分に引出した振り付け。

高橋選手は全然駄目でした、と言ったが(総合8位)、焦りまくりながらもじたばたと格闘する彼の姿に、私の胸は熱くなった。

今期の高橋選手の最上の演技はスケートアメリカ、というおおかたの評価になっているが、点数はスケアメの時の方が確かに良かっただろう。
けれども、私にはこのトリノでのじたばた演技の方が断然胸に迫った。
点数の良い演技が、必ずしも人の心に残る演技だとは限らない。

真っ白になり、焦りながらも必死になってオリンピックという舞台で、自分の出来るベストの演技を刻み付けようという、その一生懸命さが心を打つのだ。
決してベストの出来ではなくても、心がこもっていればそれは人に必ず通じる。その心が見える時、私は感動にむせんで、ああ、やっぱりフィギュアスケートを見て来て良かった、オリンピックって良い、と、選手に感謝を捧げたくなるのだ。

ただ高橋選手は外人選手と比べたらちっこくて頭が大きいから、髪をもう少し切って、整えてくれるとありがたいのだが…

オリンピックで、それぞれの選手のそれぞれの演技を見ることが出来て、本当に嬉しい。いろんな選手のいろんな演技を見ることが喜びだ。
力のこもった演技、力の抜けた演技、どれもこれも楽しい。至福の時を過ごせた。選手の皆さん、お疲れさま。

ペアへ

  inserted by FC2 system