Book Maniacs

なぜか角川文庫

新解さんの読み方

夏石鈴子

2003年文庫刊

04/4/3

赤瀬川原平の老人力に次ぐ発見と言われた新解さんの発見。その第一発見者は、SM嬢こと、この夏石鈴子嬢だった。
彼女が編集者として赤瀬川氏に新解さんの存在を伝え、それを広めたのが赤瀬川氏だったというわけだ。
この本は、「新解さんの謎」の第二弾ともいうべき、第一発見者による新解像である(赤瀬川氏がスケジュールの都合で書けなかったらしい)。

赤瀬川氏のテキストが初めに書かれた時から、新解さんも進化している。第5版が出版されたのだ。
ここではその、第5版を中心に、第4版との違いなどもフォローされている。
あの、画期的だった「合体」の言葉がすべて駆逐されているなど、第4版のファンには感慨深いものがあるかもしれない。

さて、この夏石嬢の本の欠点は、女としての生々しさが出すぎている、という点だろうか。

その部分、赤瀬川氏がいかに下半身ネタに踏み込もうとも、そこにあるのが邪気のない好奇心であって、何とも品がよく、そして大らかだったことと大きな違いである。人間としての大きさがあった。

しかし、比べて夏石嬢はやはり人間が小さい。ムキになる。
人は、人がムキになると引いてしまうものだ。
「セクハラ」(セクシュアルハラスメント)などの項で、ムキに長々と語っているのをみると、仕事場でセクハラされていたのかとも思ったりするが、関西の女だと、こんな風にセクハラを怒ったりしないだろう。セクハラなんてね、されたことがないから、それがセクハラだったりして。とかいうノリになるのだが。

そしてもうひとつ非常に目につくのが、日本語の移り変わりのものすごい速さということである。

第5版は1997年に出たそうだが、今の2004年の時点で、その時に入れられた言葉がもう古くなっている。
つまり、「狂牛病」とか「ボディーコンシャス」など。今は狂牛病という言葉は使われなくなった。
「カルト」「サリン」「グル」「ディベート」など、オウム関連で新しくとられた言葉がものすごく多い。
やはり、時を感じる。
辞書というもののむつかしさだろうか。痛し痒しという所だ。

 

さらに、もうひとつ。これが私にとっては最も気になる所なのだが、夏石嬢の無知による誤解が多すぎることだ。或いは、知っていて知らんふりをしているのだろうか。

夏石嬢は、新解さんは夏目漱石のファンらしい、と言っている。
それは、「ばり」という語の説明で、「漱石ばりの文章」とか、「叩く」の項で「漱石の門を叩く」という例文を出している所から推測しているのだが、そこまで分かっていて、漱石の小説を引用していることに気づいていない。

「よそながら」の項の、

「やかんは漸く顔を洗い了って、高島田の鬘を無造作に被って…」

という例文を出しているが、これは言うまでもなく「我輩は猫である」の中の有名なエピソードだ(迷亭君のへびめし)。

また、

「僕が君の期待する通り三千代を愛していなかったことが事実―」

というのも、三千代という名からして、「それから」だろう。
辞書が、文学作品を引用するのはよくあることだが、すべて無視して、固有名詞が出て来るのを面白がっている。これは、赤瀬川氏も同様だが。

あと、「かわいそうだた、惚れたってことよ」というのは、「ピチー・イズ・アキン・ツー・ラブ」の訳として、漱石の小説に出ていた。これも「猫」だったと記憶しているが、確かではない。

これが、姪からパチって来たウチの新明解辞典第4版、新解さん。
表紙のよれ具合が何とも気に入っています。
お世話になってます♪

なお、持っている方は、最終頁「ん」の項を引こう。
「んとす」の説明を読んで、感動して。

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