小学館文庫
逆説の日本史2 古代怨霊編 井沢元彦 1998年文庫初版 04/7/6 |
実は井沢元彦を信頼しているわけではなくて、大文字送り火を大文字焼きと称したり、小林よしのりと対談したりと、ちょっとえっ?と思う部分もなくはない。
いやそれどころか、憲法9条の改正にいたっては、首を傾げざるを得ない。憲法の改正とか、靖国問題というのは日本の国では象徴となっているのであって、自衛隊がどうのイラク派兵がどうのという前に、「憲法改正」と言えば、"日本は戦争をしてもよい"という考えだ、ということを標榜したことになる。あまり安易に論じることではないと思うのだが。
私は政治的にはリベラルだし、それはまず、誤解のないように言っておこう。日本の歴史、それも天皇のルーツを辿る古代史に興味を持てば、おのずと右傾化に走るのかもしれない。
古代天皇の、近親相姦や同族殺戮、残虐で無慈悲に敵対勢力を抹殺してゆくやり方を知れば知るほど、天皇家とはなんとえげつない種族か、と私などうそ寒い思いにとらわれるのだが。何が万世一系だ、そんなことを自慢しているから、ろくでもない血になってしまったのだ。
と、あらかじめこれだけのことは言っておいて、
それでも、このシリーズの面白さは確かなことで、通俗小説のようにずんずん読み進めてゆける。
第一に分かりやすいということ、第二に推理作家らしくミステリー風に書き進めるテクニック、それらがこの本の面白さをかもし出しているということは、前の段に書いた。今回のメインは聖徳太子の謎。そして天智天皇、天武天皇、奈良の大仏の謎、と進んでゆく。
法隆寺は、聖徳太子が建立した寺、という通説がある。これをくつがえし、聖徳太子は殺され、一族が断絶したために怨霊となり、そして…、という聖徳太子編。
さらに天智天皇は殺されたとする天智天皇編。誰に?それは、天武天皇にである。そして天武天皇は、通常は天智天皇の弟とされているが、実は弟ではない、赤の他人であった…
と、畳み掛けるように、次々と新しい説を提示してゆく迫力。そして最後に、奈良の大仏が何のために作られたのか(さらに言えば、なぜ、あんなに大規模な仏像を作っておきながら、なぜああもあっさりと平城京から長岡京、平安京へとすぐさま遷都されたのか…)。
驚天動地の、だが説得力じゅうぶんの説が展開される。これを読めば、歴史のあやとはこんなに面白いものなのかと、目を見開かされるだろう。
解説は高橋克彦が書いていて、井沢氏のテクニックを野球のピッチャーに例えているが、これもすこぶる面白い。