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Exhibition Preview

フェルメールとその時代
2000年4月4日〜7月2日

 

大阪市立美術館
00/5/2

とうとう待ちに待ったフェルメールを見て来た…。

 

と言いたいところだが、見て来た時のコンディションが最悪だった。

 

雨が降り、場所が分からなくて浮浪者の間を縫って歩き、動物園側から入ったら、まごまごして行きつけるのか不安になり、

 

 

美術館の中へ入っても、不案内な順路に腹を立て…、

 

 

 

辿りついたのが既に4時半近く…、美術館の閉館時間は、5時と相場が決まっている。

もう、見る時間も限られているじゃないか!

 

絵画を見る時は、心を落ち着けて見たいものだ。

こんな風にいらいらしたり、腹を立てたりしていては、良い見方が出来るはずがない。

 

もう、私とフェルメールは、いい出会いが出来ないに違いない。

これも運命だったのだ。

私は半ば、諦めた。

 

 

部屋は4つに分れ、デルフトの景観と教会、集団肖像画の部屋、フェルメールの部屋、そして風俗画と静物画の部屋となっている。

  

17世紀オランダで流行した絵画を、大規模ではないけれども、コンパクトにまとめた展覧会だった。

 

いい展覧会だった。

 

フェルメールが過ごしたデルフトの町の景観、通ったであろう教会の内部、当時の風俗、

清潔なタイルを敷き詰めた当時の家の様子、人々の生活……。

日欄交流400周年を記念しての企画だということで、フェルメールの生まれた町、デルフトで活躍した画家たちを中心に、

その町その当時の姿があぶり出されてくるような展示。

 

急ぎ足で部屋を辿りながらも、それらの断片からフェルメールの時代が彷彿とされ、その時代のイメージが鮮やかに浮び上がってくる。

 

あまり有名でない画家たちの、特級品でない絵を見てさえも。

 

***

 

フェルメールの絵は、初期の習作を含めて全部で5点。

 

それでも、世界で現存する真筆が36点ほどしかないと言われるフェルメールなのだから、

これだけの作品を大阪で気軽に見ることが出来るというのは、とてもラッキーなことなのだ。

 

「聖プラクセディス」、「天秤を持つ女」、「リュートを調弦する女」、「地理学者」、そして「青いターバンの少女」……。

 

フェルメールは本当に光の画家だ。

窓から射す、柔らかでいて確固とした光が、人物や人物の手もとを照らすさまを見ていると、

本当に、絵を離れて、今いる展示室の、その方向から実際に光が来ているかのように思えて、
        思わず左側に光源があるのかと探してしまう…

 

 (フェルメールの絵ではいつも光は左側の窓から来るからだ)。



 

あまりにも何気ないので、絵を見て、それがいいのか、感動的なのかさえ分からないこともある。

でも、他の画家の似たような絵と比べてみれば、そのすごさは一目瞭然だ。

光に対する集中力というか、絵の持つ求心力というのか…。

 

それは、やはりフェルメールの絵を何点かいっぺんに見て、分かったことだ。

 

  

  

「天秤を持つ女」では、実際には彼女が持っている天秤の竿などは、目を凝らしても、暗くてよく見えないのだ。

またこの絵は風俗画というより、寓意画である。

天秤で、お金の価値を量ったりすることや、財宝のむなしさを説く、もともと教訓的な絵画なのだ。

だが、それを離れて、絵は既に独立して、光の絵となっている。

窓から射す光の鮮やかさだけが、永遠のものとして私たちの目を奪う。

フェルメールとは、そういう画家なのだ。

 

そして「青いターバンの少女」…。

昔、映画監督ジャン・リュック・ゴダール夫人だったアンヌ・ヴィアゼムスキーそっくりの、

黒い背景のみの前に描かれたこの少女の絵は、フェルメールの絵の中でも最も有名なもののひとつだ。

事前のテレビ番組でも、この絵が大きく取り上げられ、そして今回の展覧会のポスターにも、

ありとあらゆるパブリシティにこの作品が使われている。

 

私もこの有名な絵を、既に絵画集や、雑誌や、いろんな媒体で見ているし、

 そうした複製でも、見るたびに、こちらをじっと見つめる少女の瞳と赤い唇に惹かれ、魅せられて来た。

改めて実物を見て、どう思うのだろうか。

あわただしい、時間の制約の中で見て、ちゃんと彼女に会うことが出来るのか…。

 

そういう、不安があった。 
 

 テレビ番組では、この絵をいやというほど褒め称えていて、

この絵の実物を見た人はかえってがっかりしてしまうのではないかと思うほど、褒められていた。

  そんなこともあり、不安の中で対面したのだったが…。

  

 

それは少し不思議な気持ちだった。

一瞬、時が止まる。

人々の頭の向うからでも、少女はこちらを見ていた。

背景は真っ黒だが、やはり光は左側から確実に彼女を照らしている。

 

なんといっても、光の絵だった。

人々を魅了して来た唇や、目の光や、真珠の輝きは、本当に遠慮がちで、激しい自己主張などないのに、
はっとするような新鮮さと驚きで、目を釘づけにしてやまないのだった。

**************

 

私は安心した。

有名な絵ほど、改めて実物を見る時、ああこんな絵だった…と確認作業だけで終わってしまいがちだが、

買って帰った絵葉書や、本の中の写真とは、どこか、でも全く違う深さ…。

 

ほんの少しの制約された時間だったが、私は彼女に会えた。

 

時間的には短くても、満足だった。

そんな喜びで、私は安心したのだった。

***

 

外へ出てみると、相変わらず雨と雷と、浮浪者。

 

傘がなく、びしょぬれになったけれど、かえって思い出になった。

 

あの日、行って良かったのだろう。

 


参考文献 「ブルータス」96年9/1号
       A Guide to the Exhibition 「フェルメールとその時代」

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