Art Maniacs

駒井家住宅
駒井卓・静江記念館

京都市左京区北白川伊織町

重い画像が少しばかりあります。

05/5/19

北白川疎水のほとりにある、京都帝国大学教授、駒井卓氏の住宅は、1998年に京都市指定有形文化財に指定された。
駒井氏のご子孫(というほど古くないが)が保存と公開を望み、日本ナショナルトラストに寄贈した。それで現在、この住宅は日本ナショナルトラストが管理・保存をしているのだ。

京都の非公開文化財特別公開は、普通は何百年も昔のお寺や神社の拝観だったりするのだが、今回はどういうわけかこの昭和に建てられた民間人の邸宅がラインナップに入った。

何といってもこの家は、あのウィリアム・メレル・ヴォーリズの設計である。
京都にもあちらこちらにヴォーリズ設計の建築が残っているのであるが、それをこうして理想的に保存し、公開してくれるのはまことにありがたい限りだ。

 

駒井卓博士は遺伝学者で、京都帝国大学理学部の教授であった。ショウジョウバエの研究などを行ったという。
静江夫人は京都でクリスチャン活動を行ったという。ヴォーリズ夫人となった日本人女性と友達だったらしい。

駒井邸は昭和2年にヴォーリズ建築事務所によって北白川の閑静な住宅地に住居として建てられた。アメリカン・スパニッシュ様式の外観、木造二階建て、敷地は約30平米とのこと。

比叡山をのぞみ、南には大文字が見える。北白川疎水に面していて春には桜並木を愛でることが出来る。まさに京都住民の憧れの地と言えるだろう。

 


内部は撮影禁止(涙)

京都駅からは市バスの5番などが直通で行ける。いつも美術館へ行く時に乗るバスに、美術館で降りずにそのまま乗り続けると、やがて「上終(かみはて)町・京都造形芸術大学前」に着く。
私は四条河原町から確か3番に乗り、伊織町というところで降りてみた。これは5番とは違うルートで上終町に着く。

方向音痴なので、初めて行く所には事前に、入念にリサーチして迷わないようにしなければならない。地図で見る限り、伊織町のほうが近い感じなので、どきどきしつつ、バスから降りた。

幸いすぐに目印の疎水が見えた。地図によると、駒井邸は疎水の横なのだ。

 

疎水を目指しつつ地図を見ていると、同じ伊織町のバス停で降りた、あまり年寄りでないおじさんが、「駒井邸ですか?」と私に声をかけてきた。
私が頷くと、おじさんはこちらですよ、と私に並んで案内してくれる。

おおっ、チャンス!(何の?)と私は心の中で喜んだ。見れば、おじさんではあるが、年よりというほどではない、若いおじさんだ。

 

歩きながら、紳士は(急に紳士になる)、建築関係の方ですか?と聞く。

この一般的な女の格好をした、特別に才媛とも見えない私を見て建築関係もないだろう。と思ったが、私は懸命に、「いえいえ、ヴォーリズの建築に興味のある一般人で…」などと好感の持てるであろう態度で紳士に説明した。

紳士は、かつて、この建物がナショナルトラストの管理になる前に、この家の窓を修繕した大工であると言った。
おおなんと。ヴォーリズ設計の家を直した大工さんであったか。
既に私の目はハート型になっていた。

駒井邸は特別公開時期で混んでいた。なかんずく、観光バスの観光客が大挙入っていて、混乱していた。
それを見ると、おじさんは、うわー団体か〜、これはあかんな、と言い、そのまま駒井邸の前を素通りしてまっすぐ歩いてゆく。

そ、そんな。

私はよっぽどおじさんの後をついて、ではひとまずどこかでお茶でも、などと切り出そうかと思ったが、その勇気もなく、団体客のあとに続いてしおしおとひとりで駒井邸へ入ったのだった。

ちっ、もうちょっとだったのに。
もしかして、私のストッキングが破れていたのを見つけられ、しまりのない女だということがばれたのだろうか(オイ)。

そんなわけで、大工のおじさんとは何の発展もなくここで縁が切れてしまったのであった。


疎水を挟んだ向こう側から撮ったが、何が何だか分からない(涙)

すいません。つい個人の感慨にふけってしまって。

駒井邸は、大工のおじさんが予告したとおり、とても小さい。建坪は30坪と書いてある。

けれども離れと温室がある。庭があり、池もある(水は抜かれていたが)。敷地の総面積はそこそこあるはずだ。

庶民の我々の家とは違い、敷地全体に家が建っているのではなく、疎水から見える家の前面にも歩ける空間があり、家の裏には建坪より広いかと思われる庭がある。
小さくても、ゆとりのある空間設計なのだ。

ただ、家は小さいとは言え、濃密だ。写真では、外観はそんなに大したことはないが、近くで見るととてもすてきだ。写真では良さが分からないのは、塀や垣根などがあり、せせこましくて、全景をベストショットで写せないからだと思う。

そして、内部に入ると、これがもうヨダレが出るのだ。

窓やら、出窓の下のソファや、家具調度品が上品で、色合いが美しくて、何とも居心地の良さそうな、ほっこりする空間がある。サンルームなどは、小さいのにもう、大きな窓のすてきなデザインや、色の美しさにとろけそうになる。その横には和室がしつらえてあり、外から見ると、和室だとは見えないような隠れ和室というデザインになっている。

2階には駒井博士の書斎があった。ここは、生前の書斎をそのまま保存してあるのだろう。
博士が所有していた書物がそのまま書棚に沢山残されている。書類も積み上げられている。
横からふと博士が出て来ても何の不思議もない。

まるで映画のワンシーンのように、時の止まった書斎の様子。いつまで経っても見飽きない、そんな空間だった。

ヴォーリズの家は、魔法のようだ。

特別ものすごいデザインが施されているわけではない。装飾が主張しすぎず、ほどよいアクセントを形成している。それが何とも居心地のよい、いつまでいても飽きない、ずっとここにいたいと思わせる理由なのだろうか。

おしゃれでハイソなのに気取っていない。モダンなのに和める。住む人の気持ちを考え、穏やかにさせる空間造り。

さぞや住みよい家だっただろう。何とも気分のよい、ちょうど自分の家のようにくつろげる、人の息吹きと湿り気を感じさせる、そんな家だった。

 


このように、家のすぐ横に疎水が通っている。
疎水はいつ撮っても絵になる 47KB

ここも桜の季節には満開の桜が拝めるのであろう。京大の教授はほんとええのう。こんな環境のいいところに住めて。

疎水の横をぶらぶら歩きながらバス停に向かうのも、またいい気分だった。

<疎水について>

疎水は、琵琶湖からトンネルが掘られて京都に流れている。山科で顔を出し、再びもぐって九条ポンプ室(?)あたりから地上に出て、鴨川運河と合流したり、分線となって哲学の道の横を走ったりして北上し、北白川を通って松ヶ崎浄水場に行き、そこから西に、疎水分流などと呼ばれて鴨川へ辿りつく(ようだ)。
通っている場所にしたがって岡崎疎水とか、北白川疎水などと呼ばれているが、いずれも疎水だ。疎水のどこにもソメイヨシノが植えられ、ホタルが来る。

 

【近所】 京都造形芸術大学(森村泰昌が教授をしていた大学)

【駒井邸への行き方】

市バス 伊織町、上終町・京都造形芸術大学前

叡山電鉄 茶山駅

市バスに乗っていると、踏み切りに遭遇した。カンカンと鳴って、踏み切りが降りる。ものすごく久しぶりの踏み切りだ。待っているとやがて叡電のスマートな車体がしずしずと線路上を通って行った。
昔、八瀬(遊園)に行く時、叡電に乗ったなあ…となつかしい。でもその頃の車体はずず黒くて汚くて、冴えない電車だったよなあ…。今はすっかり垢抜けていた。
そして、しばらく行くとまた踏み切りがあり、カンカンと言って踏み切りが降りて来る。待っていると、先ほど過ぎて行ったと同じ叡電が再びしずしずと過ぎて行った。うーん。楽しい。
ワシラ、ダウンタウンに住んでいるとこういう路面電車には縁がないので…。
この叡電は出町柳駅(今出川川端)から出ている。鞍馬まで行く。


参考 駒井家住宅パンフレット


<ヴォーリズの表記について>

ウイリアム・メレル・ヴォーリズのヴォーリズはVolliesというスペルらしいので、従来通りに発音したらヴォリーズというのが正しいような気がするが、どういうわけか、関係者がヴォーリズという表記で統一しているので、その慣例にしたがった。


<非公開文化財特別拝観について>

春と秋の特別期間に、普段公開されない京都の文化財が公開されるようになった。

1ヶ所につき800円。東寺などのように、五重塔と小子房など、1つのお寺で複数公開される場合には、そのつど800円徴収される(なめとんか)。
拝観料は文化財の維持管理に充当される。というので、せっせとお金を払うが、高すぎるのではと。

普段公開されないと言っても、京都の場合は何だかんだ言って結構いろんな時期に公開されているのが普通である。焦らず時期を待つのがいいかもしれない。
値段は変動する。
駒井家は、普段は金・土に1000円で公開されているのだ。そのかわり、別の場所では普段600円のものもある。

今回はほかに北野天満宮(北野天神縁起絵巻の公開!)、大将軍八神社、千本釈迦堂、知恩院三門、仁和寺、東寺五重塔など、いずれもヨダレもののラインナップだったが、一度の公開につき1ヶ所から2ヶ所くらい、とあらかじめ決めておいたら楽に回れると思う。

  inserted by FC2 system