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Theodore Chasseriau
テオドール・シャセリオー 1819-58
2017/5
エステルの化粧 1841年
テオドール・シャセリオー(1819-58)の代表作と言えばまずこの「エステルの化粧」、
旧約のエステル書からとられた題材。
エステルがクセルクセス王に陰謀を暴露するため参上するさいに念入りに化粧をする場面、
エステルの魅力が何より見どころ。
まるで、あの頃のアンヌ・ヴィアゼムスキーのような美しく瑞々しい美貌のエステルが髪の毛を無造作に結い上げている。
何とも魅惑的で惹きつけられる場面。
女の身支度はそれだけで絵になる。
まずアングルの弟子として工房に弟子入りして出発したシャセリオーは次第にロマン主義に傾倒してゆく。
そして写実主義とロマン主義を合わせ持った画風に転じていったというが、なぜ、どのようにして
まったく相反する絵画表現を融合させていったのだろうか。
そんなことが可能だったのだろうか。
テピダリウム 1853年
シャセリオーはローマの古代世界に通じていたということで、この絵は発掘されたローマの古代遺跡を
忠実に再現し、そこに古代風の人物を配置していったということだ。
それは当時の画家たちにローマ世界を紹介して、インスピレーションを与え、かなりの影響を与えるものだったらしい。
クールベの絵を想起したりしてしまうのだが、19世紀になって古代遺跡の発掘が進み、古代研究が急速に発展したらしい。
シャセリオーの絵は、当時の画家たちに古代の基本を教える手本になったのかもしれない。
泉のほとりで眠るニンフ
伝統的なヴィーナス像にのっとったようなこの女性の裸体像。徹底的な写実性が、まるでクールベのよう。
やっぱりクールベを連想してしまう。
腋毛がしっかり描かれているのが非常に珍しい。初めて見たと思う。
モデルは画家の恋人ということだが。
まだまだ硬さが目立つ気がするのだが、
アカデミーと、新しく誕生した情熱的なロマン派との間で揺れていたシャセリオー、少しずつ、その作風が
分かって来たような…
二人姉妹 1843年 画家の姉妹を描いたということだが、この絵は「二重肖像画」として、 世紀末から象徴派の画家にかなりの影響とインスピレーションを 与えた。 もしかしたら双子なのかもしれない。 そっくりの女性二人が寄り添う。 画風こそ写実主義だが、主題が謎めいていてそして少しデカダン。 この世界は象徴派によって、やがて女二人の秘密の世界へと展開してゆく。 クノップフの女性習作↓ |
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メデア パゾリーニの映画「王女メディア」の販促に使われていた絵として 覚えていたので、ちょっと取り上げてみた。 神話を題材にしているが、メデアを扱う画家はわりと珍しいような気がする。 これは、夫イアソンの裏切りに逆上したメデアがイアソンとの間に 生まれた我が子二人を手にかける場面。 そのものずばりの場面だが、残虐性よりも、 メデアのやり場のない悲しみが伝わって来る。 視線の先にはイアソンがいるのだろうか。 男を愛したあまりに悲劇を呼ぶ魔女の業。 ドラクロワ的作風に転換したころのものだろうか。 ドラクロワ作品のポーズに似ている。 |
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オリエントの室内 1850ころ シャセリオーはドラクロワの影響によって、アルジェリアに実際に 旅をしたようだ。 そこでオリエンタリズムに目覚め、それが多くの画家たちに 影響を与えることになる。 画風は写実主義であるものの、題材がドラクロワ風で、 こういうふうに相反する二つの画風を画家の感性で 融合させていったのだろう。 画風よりも、取り上げる題材がユニークだったような気がする。 アングルとドラクロワ…まったく不思議な画家というほかない…。 |
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ムーア人の女性 これもオリエントを題材にしたもの。 エキゾチックな女性の裸体のエロチシズム、 髪をさわるしぐさはシャセリオーのこだわりか、 たびたび登場してくる。 オリエンタリズムは、当時のヨーロッパの画家たちのあこがれだったようだ。 シャセリオーがもたらす異国の雰囲気は、 画家たちにオリエントの世界への理解を深め、 いっそう傾倒へ導いたことだろう。 そのような意味で、シャセリオーの影響は大きかったのだろう。 |
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デズデモーナ シャセリオーはシェイクスピアの劇をしばしば題材に選んでいる。 マクベスを取り上げた絵もある。 この点でも珍しい画家と言える。 まるでラファエル前派の先駆けみたいだ。 もしかしたらその辺への影響もあるのかもしれないが、 シャセリオー、モロー、象徴派、世紀末と流れてゆく 流れが何となく見えて来る。 これは「オセロ」の悲劇のヒロイン。 ムーア人の夫、オセローに不貞を疑われる。 白いドレスで潔白をシンボライズさせたものだろうか。 オリエントを題材にした作品とほとんど変わらないところも面白い。 |
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デズデモーナ 同じく「オセロ」のデズデモーナ。 よほどデズデモーナが気に入ったのだろうか。 シェイクスピアのどの場面というよりも、戯曲のヒロインから 想を得て独自の画面を作っているのだと思う。 それともこういう場面があったのかな? 白いドレスに黒髪がエキゾチックでやはりオリエント風味を感じる。 膝に抱えているのは竪琴? |
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スザンナと長老 旧約から題材をとっている。 ルネサンスの昔からさんざんヨーロッパ各地で描かれて来た 題材だ。 ルネサンス時代には、老人たちがスザンナを覗き見する 出歯亀のシーンにかこつけて、スザンナのヌードを描く口実に なっていた。 こういう古典的な題材を多く手掛けたのも、時代のはざまにいた シャセリオーの特徴のひとつだろう。 アカデミズムからも近い所にいたのだろう。 スザンナは裸体ではなく、布で身体を隠している。 古典によりながら、またひとつ違う解釈で定型を脱する、 それもシャセリオーの画期的な部分だったのかもしれない。 |
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水浴のスザンナ 1839年 シャセリオーと言えば、どうしてもモローとの関連を考えてしまう。 モローに確実に影響を与えた画家として知られる。 モローともはや区別のつかないような絵もある。 このスザンナもいっけんモローなのかと間違うくらい。 でも背景がやっぱり違う。 そしてモローの「貞節のスザンナ」がこれ↓明らかに影響が。 どちらも官能的ではあるけれど、 シャセリオーの方が気持ちが入り込めるねえ。 |
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海から上がるヴィーナス 1838年 西洋伝統のヴィーナス像。ちゃんと貝殻も描いてあって、 やはりアカデミズムの好む主題を扱いながら、 描写はかなりラフになっている。 髪を上げるしぐさがシャセリオーらしい 官能性もある。 またもう一度モロー 「ヴィーナスの誕生」↓(水彩) 構図がそっくり。 |
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アポロンとダフネ 伝統的な題材をまた選んでいる。 この絵もモローに影響を与えているのだ。 よく似た構図のものがある。 どうしてもモローから離れられないな… ダフネがアポロンを拒絶するあまり、 神に祈ってその身は月桂樹の木に変身してしまう。 その瞬間をルネサンスの画家たちも捉えて来たが、 このアポロンのすがりつく必死のさま、 ダフネは自ら望んでいながらもその運命を嘆いているようで、 ともに悲劇を彩っている。 古典にまたあらたな息吹を吹き込んだような、 そんな悲劇的だがロマンチックな、美しい絵ではないだろうか。 |
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サッフォー そしてサッフォーが登場する。 シャセリオー以前に取り上げた画家を知らない。 レズビアニズムで有名なサッフォーだが、 恋に破れた詩人という側面もあった。 詩人は竪琴を持つことで象徴される。 恋に破れて身を投げる瞬間だろうか。 なびく髪と、背景の流れる雲が彼女の内面の激情を 表しているようだ。 シャセリオーは黒髪が好みだったのだろうか。 そしてサッフォーのテーマはモローが受け継いでゆく… |
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サッフォー 同じサッフォー… もう絵の具は古典を捨て、荒々しい荒描きでサッフォーの激情を 表現する。 予定調和的な古典の典雅な作風はここにはもうない。 画家の秘めた、赴くままのパッションが筆を走らせたかのようだ。 シャセリオーは、わずか38歳で夭折する。 |
自画像
参照 「西洋絵画の主題物語」美術出版社
ギュスターヴ・モロー展 図録
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