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Movie Maniacs

ふたり

Two People

 

 

1973

アメリカ映画

監督 ロバート・ワイズ

主演 ピーター・フォンダ リンゼイ・ワグナー

14/1/13

 

日本映画に同名の映画があるがそれとは関係ない。

ラブ・ストーリー映画は数あれど、これはそれほど有名でもヒットしたわけでもない。

ひっそりと、それほどひとの目に触れるわけでもなく、だがしっかりとした存在感で心に残る、そんな、切ない優しい、時間のない恋を扱ったラブストーリーである。

 

モロッコ近辺でファッション雑誌の撮影をしていたモデルの女が、撮影を終えてマネージャーと列車でモロッコへ向かう途中のその列車の中で一人の男と同席する。

女は写真家の夫と別れたばかり、その男との間に一人の子供がいる。

男はわけありと見えてあまり物を喋らず、なぜか悲しげである。

女はその男が涙を流すのを見て、動揺する。

久しぶりだったのよ、男性の涙を見たのは。蓮っ葉な女の言い訳。

 

それでも旅の途中、列車が途中停車して近くのバザールに一緒に買い物に出向いたりと、少しずつ二人は親しくなる。

 

だが、モロッコに着いて、パリへ行く飛行機へ搭乗するさい、男が特別にどこかへ連れて行かれるに及んで、事が発覚した。

男はベトナム脱走兵で、反戦運動家の尽力でロシアやヨーロッパを逃げていた。しかし、脱走生活に疲れ、自ら自首してアメリカへ送還される途中だった。

戦争が悪いのよ、あなたのせいじゃないでしょう、と言う女に、それでも脱走という法を犯したのだから、と諦めたような顔で彼女を逆に説得する男。

華やかなファッションの世界で生きて来た女にとって、こんな男ははじめての存在だった。

お互い、少しずつ意識している事が分かった。

 

同じ飛行機でパリに着いた時、女は言った。

ここでお別れね、夜はこれこれと言うクラブに行くと良いわ…相変わらずあけすけにそう言った。

金髪の女の子にするといいわ。

 

男はパリで一晩観光を、そして女は顔見知りの華やかな連中のパーティーに出席。そうやって二人は別れた。

 

ルーブル美術館、セーヌ川の船、パリの夜を観光をする男に女の声が甦る。

女は、パーティーの派手やかさが我慢ならなくなる。

そこではベトナムも、そこでの兵士の苦悩も知らぬげに、軽薄な会話が飛びかっている。

女は思わずそこを飛び出した。

会いたい、あのひとに。

 

彼女は自分が口にしたクラブへと足を運んだ。

男はそこにいた。 

自然と引き寄せられるようにして再会した二人。

 

ブルネットの女性といい雰囲気になっていた男は、振り切って去ろうとする女のあとを追う。

クラブで鬼ごっこのように逃げようとする女を掴まえ、

「金髪にしなさいと言ったでしょ」

「黙れ」

そしてまるで当然のように抱き合い、長い口付けを交した。

 

もう離れられない。二人とも、そう思った。

 

 

だが、男は脱走兵。

明日には自主的にアメリカへ返らなければならない。

脱走の刑は4年の収監になるという。

時間がない、と焦る女。

一からはじめようよ、と静かな声で落ち着かせる男。

二人は夜のパリをさ迷う。

あれがノートルダム寺院よ、良く見ておくのよ、4年後には駐車場になっているかもしれないから。

女の蓮っ葉なセリフが哀しい。

ふたりは、女が泊まっているホテルへ行った。

ひっそりと、静かに、だが熱く抱き合う。

この一度、もうこの時しかないと心に刻んで。

 

翌朝、女は男にこのまま自首しないで逃げてくれと言う。

だが男はこれ以上、自分の時を無駄にしたくなかった。逃げ回っていた時間が、いかに無駄だったかが身に沁みていた。

二人は同じ飛行機でアメリカへ発った。

女のアパルトマンへ。

そこには女の生んだ男の子と、母親がいた。子供は、母親が世話をしていたのだ。

男は子供とすぐに仲良くなり、遊び始める。

母親が言う。あんたがああいう人を連れて来たのは初めてね。

女は一瞬、母の胸に泣き崩れる。

別れの時が近づいていた。

ニューヨーク、ハイドパーク。

男と女と、子供とでしばしボール遊びをする。

はた目には中のよい親子と写ったろう。

男は時間だ、もう行かなければと言う。

女は言った。

待てないわ、4年もなんて。

様子を見ようよ。

愛しているの。

映画は俯瞰で男が去る場面をフェードして終わる。

 

時間がないから余計に燃える。それが恋なのかもしれない。

時間がないから愛してはいけない。その思いがかえって心を燃やしてしまう。

華やかな世界の女と、まったく反対の地味な、無関係の時間を生きて来た男。

そんな二人にも恋の炎が燃えることがある。

 

ベテラン、ロバート・ワイズの流麗な演出が快い。

モロッコからパリ、ニューヨークへと移ってゆく背景が旅情をつのらせる。

 

ただ一度だけ燃えたベッドで、4年間も待てない。

女の待てないと言うその言葉を、この映画を初めて見た時の私は真正直に、ああ、旅先で気まぐれに始まった恋に未来はないのだろうな、と思った。

 

だが、今はまったく違う思いを持つ。

女は待つ気でいるのだ。

待てないと言うことは、待つという意味なのだ。

じれったそうに、愛しているのよ、という女の言葉が、ラストのセリフだ。

だって愛しているの、だから待ちたいの…

派手やかな世界に生きて来た女が、冗談や皮肉ばかり言っていた女が、最後に言うアイ・ラブ・ユーの言葉。それが心に染みた。

 

ピーター・フォンダが相手役だが、反戦の主張などはまったくない。

これはただ、切ない恋の物語になっている。

この地味で、わけありの、けれど憂いを含んだ役柄にはぴったりと当てはまっていたと思う。

テレビで活躍していたリンゼイ・ワグナーの美しいモデル役も、派手で活発な性格ながら、地味な脱走兵に徐々に惹かれてゆくさまが良かった。

その他にはあまり俳優も出ていなくて、文字通りふたりの恋の行方に絞った演出であった。

この映画が、私の恋愛映画のベストだ。

ひそやかに、でも確と恋の行方を刻んだこの映画が好きだ。

 

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