大魔神
2019/10/22(2018/8/15up)
制作年:1966年
84min.
監督:安田公義
脚本:吉田哲郎
出演:高田美和/青山良彦/藤巻潤ほか
大映の特撮(当時はこういう呼び方をしていた)における、大傑作である。
大魔神は全三作、「大魔神」(安田公義) 「大魔神怒る」(三隈研次) 「大魔神逆襲」(森一生)
それぞれ当時の大映の一線監督を投入している。
「ゴジラ」あたりから流行していた特撮ものを、大映でも作ろうと企画して、ユダヤの伝説「巨人ゴーレム」を参考にして、
大映とくいの時代劇として制作した。
第一作からして、時代劇のベテランに演出を任せている。
「大魔神」は上映時間84分と、とても短いが、タイトルの大魔神が活躍(?)するのは、終盤の10分くらいのみ。
いつになったら動くのかとじりじりするが、それまでは純然たる時代劇で、勧善懲悪のパターンに入る、悪人成敗の物語。
特撮映画を、大映とくいの時代劇として制作したのが唸るアイデアだった。
しかも、脚本がよく出来ていた。
タイトルの大魔神がラストで動くまでの過程を飽きさせることなく見せる。
大映映画は色彩が美しいとも、改めて思った。
赤を基調にし、深い森の緑や、滝の水の色、藩内の土煙、大映はやはり色の出し方がうまい。
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(オールネタバレ)
物語は、戦国時代のある藩、古くから地震などが起きた時、村の彼方の山奥に鎮座するらしい神像が
怒りをぶつけているからだと信じられて来た。
山に住む巫女が祈祷をし、災害が収まるのを祈る。
神像は神秘的な山の中腹に、巨大な埴輪の姿をして、立ち続けている。
太古の古墳時代の誰かが作ったものだろうか、穏やかな、原始的な顔で山奥にひっそりと佇み、村人たちの信仰を集めている。
ある時、村を治める城で、家老の「左馬之助」が謀反を起こし、殿を殺害。
殿の二人の幼子(兄と妹)を、殺害された殿の忠実な家臣(小源太)が連れ出し、
森へと逃げ、くだんの巫女のもとへたどり着き、山の洞穴で隠れながら生活することになる。
それから十年後(えっ?? 展開が早すぎ)
左馬之助の横暴はさらにひどくなり、村人を城の城砦を築くため、過酷な労働に駆り出している。
病人が出ても、死人が出ても、お構いなしに村人を酷使する。
城を乗っ取られた若君は山中で逞しく成長し、左馬之助の横暴に、お家再興を望むが、
ともに暮らしていた家臣の小源太に諭され、先に小源太が城内に仲間を求めて山を下りる。
だが、左馬之助の家臣に見つかり、捕らえられ、拷問のあと、城中見張り台にて逆さ吊りされる。
助けに若君が城内へ下るが、彼も掴まり、小源太とともに磔の刑に処せられることになる。
見かねた山に住む巫女が、左馬之助の横暴を戒めるため、これ以上村人を苦しめると山の守り神の祟りがあると告げに行く。
「神を畏れなされ」
しかし聞く耳持たぬ左馬之助は、巫女を惨殺する。
迷信など信じぬ左馬之助は、さらに家来たちを神像のある山に入らせ、神像の破壊を命じる。
深い森の山奥に佇む神秘的な埴輪の神像を、怖れを知らぬ家来たちが破壊しようと、巨大な楔を神像のひたいに打ち込む。
すると突然山中に異変が起き、楔を打ち込まれた神像の額から、血が流れだす。
驚いた家来たちが逃げようとすると、大地が割れ、家来たちを飲み込んでゆく。
若君の妹・小笹(高田美和)が、神に向かって、自分の命と引きかえに住民を救ってくれと、滝に身を投げようとする。
すると、神像に異変が・・・
大地に異変が起き、地割れが起き、ついに神像がぎこちなく動き出す。
次の瞬間、埴輪の顔だった神像が、般若のごとき怒りの表情に変わっている。
地響きを立てながら、魔人の像が城内へ向かってゆっくりと、そろりそろりと、歩き出す。
おりしも小源太と若君が磔になり、槍で処刑されようとしている時、魔人が近づき、二人を磔ごと引っこ抜いて助け出す。
狂ったように地響きを立てながら、家来たちを踏みつけにし、家々を破壊してゆく魔人。
おののく城内の侍たち。
ついに左馬之助を発見し、軽々と片手で持ち上げ、磔にし、
おのれの額に打ち付けられたくだんの楔を自ら引き抜き、左馬之助にとどめを刺す!
それでも怒りの収まらぬ魔人は罪なき村人たちも襲い始める。
再び姫(小笹、高田美和)が、魔人の足元に駆け寄り、村人たちへの許しを請い、身代わりに自分を差し出そうとする。
その彼女の涙が一粒、魔人の足元に落ちると、魔人の顔がもとの穏やかな埴輪の顔に戻る。
大地が轟き、魔人の像はその場で砂煙と化し、崩れ始めるのであった・・・
この最後の特撮での、魔人像が崩れ去ってゆく場面は一番の見ものだった。
その場で立ち尽くしたまま崩壊を始める神像。
どのような特撮をしたものか、ハリーハウゼンも真っ青な見せ場であった。
魔人像のスケールも見事だった。
大きすぎず、小さすぎず(笑)、人間を抱えた時の、リアルな大きさ。
それがのしのしとゆっくり歩くさまは、よりいっそう迫力を感じさせた。
日本の特撮なので、モデルアニメではなく、スーツアクターが魔人を演じているが、(京都では)伝説的な人物になっている。
血走った目が、ぎょろっと動くのである。
魔人像に合わせて、城郭や家々のミニチュアをこしらえたそうだ。
とてもミニチュアとは思えない、屋根瓦の質感や、家の柱。それらが惜しげもなく、魔人の手によって壊されてゆく。
スローで破壊される場面を撮っていると思うが、ちゃちな出来ではないミニチュアだからこそ、リアリティがあった。
時代劇のノウハウを持っていた大映だからこそ、製作出来た建物のリアリティだったと思う。
魔人が動き出すまでのタメが長すぎるが、それが「大魔神」シリーズの特徴でもあった。
たっぷりと尺を取り、村人たちの虐げられた様子を描き出す。
それが当時の時代劇映画の描き方だったが(のちのヤクザ映画にも踏襲される)、
いかに退屈させずに魔人の活躍まで持たせるか、それが脚本の見せどころでもあった。
(2作目以降は、少しパターン化してしまうが)
日本の特撮映画史に残る…、それだけではなく、日本映画史に残る大傑作であると思う。
大魔神 1966年
大魔神怒る 監督:三隅研次 1966年
出演:本郷功次郎/藤村志保/丸井太郎ほか
大魔神逆襲 監督:森一生1966年
出演:二宮秀樹/北林谷栄/名和宏ほか
大魔神BOX ブルーレイ 10187円