カプリコン1
2018/11/26(8/21up)
"77米 124mins.
Capricorn one ピーター・ハイアムズ
NHK BSで「カプリコン1」を放送した。
映画館へ行く機会があまりないため、良質の映画を放送してくれるBSはありがたい。
久しぶりに見たらものすごく興奮した!以下、以前に書きとめていた映画感想ノートから
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脚本 ピーター・ハイアムズ
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
エリオット・グールド
ジェームズ・ブローリン
テリー・サバラス
ブレンダ・バッカロ
カレン・ブラック
才人・ピーター・ハイアムズの傑作ポリティカル・フィクション。
はじめSFのように始まって、サスペンス・ミステリー、アクションへと3段階的に次々に変化していって、
あれよあれよという間に意外な結末に至る。
が映像感覚のビビッドさで最後まで引きずり込まれてしまう。
人類初の火星ロケットとなるはずだったカプリコン1号。
が、その故障のため、パイロット達3人はなんと倉庫の中で"火星着陸"の茶番を演じて全世界をだますはめになった。
「便利な世の中になったもんだ。火星にピザを出前してもらえるなんて」
が、ここまでは映画のまだ序盤。
この後陰謀に気づいた記者の謎を追うサスペンス、
パイロットたちの逃亡激から、なんと複葉機対ヘリの大空中戦にまで発展してしまうめまぐるしいストーリー。
ハイアムズならではのカメレオンぶりだが、ハイアムズだから見事に求心的にまとまっており、
ストーリーテリングのうまさを実証した。
エリオット・グールドが小さな手かかりから陰謀(NASAの!)に気づいてゆくあたりの推理のスリル。
農薬散布のもうけ役テリー・サバラスが突如登場するあたり。(セリフもしゃれてる)
国家的陰謀を追うのが単なる一般民(たった二人)というのもいい。
いちばんすごいのはヘリと複葉機の空中戦で、このライブシーンのカメラがすごく、何度見てもスリリングで圧倒される。
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と、こんな風に以前は書いていたが、この10倍くらい興奮する映画だった。
しかし要領よくまとめている。
でも詳しいストーリーの骨格はこれでは分からないだろう。
エリオット・グールド、カレン・ブラック、ブレンダ・バッカロなど、なつかしい俳優の名前が並んでいる。
人類初の火星有人飛行となるはずだったカプリコン1号。
世界中に生放送され、すでに秒読みも開始。
その直前でパイロットたちがなぜかハッチを開けた背広のおじさんに、訳も告げられず強制的に引きずり降ろされる。
2か月前に、宇宙船に不具合が見つかった。
だが膨大な予算をつぎ込んでいるため、ミッションを中断するわけにいかないと。
総責任者のケラウェイ博士が3人に説明する。
アポロ11号から16年間、夢を追い続けて来た。失敗したら、政府はもう予算を組んでくれないだろう。
「アポロ17号の中継の時、苦情が来た。アイラブルーシーの再放送をなぜしないのか」
不具合は利益を上げるため業者がケチったからだった。
国は「夢」などにはもう予算は出さないだろう。
失敗は許されない。
パイロットたちの家族は人質に取られ、やむなく協力するはめに。
砂漠のある地に巨大な倉庫があり、そこに2か月間かけて火星のセットが組まれていた。
「びっくりカメラだろ?」
世界をだます壮大な生中継!
だが緊急事態発生。
帰還するさい、カプリコン1号の再突入に対して、3人が近くの島に行く手はずになっていた。
しかし現実の再突入のさい、耐熱シールドに異常が見つかり、カプリコン1号は地球帰還のさい、爆発炎上。
NASAは失敗を認め、パイロットクルーたちも犠牲になったと報告。
倉庫にいたクルーたちは、自分たちが殺されると判断し、即座に倉庫から逃げる。
外は砂漠。3人は別の方向へ徒歩で別れる。
NASAの追及はすぐに及び、ヘリが彼らを見つけ、抹殺しようとする。
砂漠の向こうから姿を現すヘリの不気味な姿…。
いっぽう、その頃、新聞記者のエリオット・グールドが、打ち上げのVを見て、不審に感じ、
さらにNASAで働いていた友達が、通信が近すぎると疑問を持っていたこと、
その後友人を訪ねたら、どこにも姿が見当たらない。
自分も事故で死にかけた。
上司にスクープを取らせてほしいと頼む。
「お前は地道な取材をしろ云々…ごちゃごちゃ」
「48時間くれ」
「大きなことばかり考えるな。地道にごちゃごちゃ…。24時間だけやる」
グールド、やがて砂漠に行きつき、がらんとした倉庫を発見。
そこにクルーのペンダントを発見、確信に変わる。
その頃砂漠で不気味なヘリ2台がクルーを追いつめていた…。
グールド、近くで民間の農薬散布の会社を発見。
そこの複葉機を借りたいと、経営者のテリー・サバラスに交渉。
100ドルくれ。
100ドル出すと125ドルを要求。
なぜだ。100ドル出したから出すだろう。
ひとり残ったクルー(ブルベイカー、機長)に複葉機が近づき、翼に乗せて救出に成功。
だが、彼らにヘリが近づいていた…。
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SFのように始まり、SF映画かと思いきや、ストーリーが意外な方向へと展開してゆき、
息もつかせぬテンポでスリリングなストーリーが繰り広げられる。
火星着陸のその瞬間が世界中にテレビで配信されている。
現場のカメラがゆっくり引いていくと、ライトがあり、スタッフがおり、そこは倉庫の火星のセット…という皮肉。
慄然とするシーンだった。
ハイアムズの脚本が何と言っても光る。
クライマックスでの、農薬散布がものを言うあたりなど、脱帽もの。
グールドがヨセミテの言葉から陰謀に気づくあたりは少し強引な気もするが、ハイアムズはセリフもうまい。
「宇宙開発に金をかける前に地球上に山積みの問題がある」
冒頭、クルーたちがロケットに乗り込む時、「逃げるなら今だぞ」
*
カプリコン1号が地球再突入で爆発炎上してから、NASAはクルーたちの(死んでいるという前提で)追悼式を決定する…。
彼らを英雄として讃えるためだ。
家族たちが、その追悼式に出ることになり、ついにクライマックスでそのさなかに…。
見事というほかない幕切れ。
ハイアムズの真骨頂である。ひょっとしたらこれが最高傑作かも。
途中からNASAの協力は得られなくなったという。
いかにもいかにも。
「夢」を追っていたはずのNASAの博士が、対面のため、理不尽な殺人まで命じてゆくことになる、
組織の非道さを炙り出す。
圧倒的なサスペンスの連続の中に、反骨精神を一本とおしたハイアムズの精神に敬服。