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君の名前で僕を呼んで

Call Me by Your Name

2020/8/6(2018/8up)

Call Me by Your Name
https://cmbyn-movie.jp/



名作だと思う。
傑作だと思った。


男性同性愛映画である。

 

場内はすいていた。
10人くらいしか入っていなかった。

*



まず退屈な映画である。

とくに前半は退屈で帰ろうかと思った。

男性同性愛に興味のない人は80%退屈だろう。


が、少し待つ。



しかし、風景描写が圧倒的だ。驚くほど圧倒的だ。

イタリア建築、建築オタにも圧巻の建築描写、
室内も、オランダ絵画かと見まごうような、完璧な室内描写、


終盤に進むにしたがって、その美しさはこれでもかというほど、
凄まじいほどの美しさが加速してゆく。



男性同士のベッドシーンもあるにはあるがそれほどではない。
キスシーンは沢山ある…。


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脚本は今年度アカデミー賞脚色賞(スクリーンプレイ)を受賞した、ジェイムズ・アイヴォリー、

「眺めのいい部屋」の監督でもある。

あの映像美が圧巻だった作品の監督、
そしてまたあまりにも見事な映像美で格調高く同性愛の世界を描いた「モーリス」の監督でもあり、
カズオ・イシグロの「日の名残り」の監督でもある。


監督はプロデューサーも兼ねるイタリアのルカ・グァダニーノ、
オールイタリアロケだが、英語スピーキング。
(フランス娘との会話はフランス語)


撮影監督はなんとサヨムプー・ムックディプロームという、タイ出身のカメラマン。
グァダニーノと何作か付き合っている。




「17歳と24歳の青年の、初めての、
そして生涯忘れられない恋の痛みと喜びを描いた本作。

男女を問わず、世代を問わず、たとえ今は忘れてしまっていても、
誰もが胸の中にある柔らかな場所を思い出すような、まばゆい傑作だ。」

というコピー。



そして最初にネタばらしをしてしまうが、ネタバレが嫌な人は以下、読まないでください。



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ラストシーンの長回し、ワンカットの長回し。


それだけで見る値打ちがある。


あの場面で泣いた。

自分でも意外なほど、どうしたのかというほど泣いた。
涙が溢れて仕方がなかった。

これほど泣くとは思わなかった。

久しぶりである。

あのラストの長回しこそがこの映画のキモだろう。






ファーストシーンのタイトルバックが秀逸だ。
ヘレニズム文明のギリシャ彫刻の青年の彫像の写真が幾枚も次々現れる。

これが伏線となって、中盤のシーンに生きて来る。




1983年、ユダヤ系イタリア人の主人公エリオは17歳、
父はギリシャ彫刻を研究する美術史研究家らしい。

イタリアの別荘での夏休み、アメリカから父の研究の助手として、
若い大学院の学生オリヴァーがやって来る。

エリオとオリヴァー、少しずつ距離を縮めてゆく彼らの夏休みが描かれる。



エリオ役はティモシー・シャラメという若い俳優。

特別に美少年という風には思わないが、カラヴァッジオ風の少年で
家の中ではつねに上半身裸で短パン、家の外では簡単な半袖Tシャツ、
という感じで少年と青年の狭間の出し惜しみのないボディが眩しい。



24歳の大学院生はアーミー・ハマーという長身の美丈夫俳優。

こちらも特段に美青年とは思わないが、

エリオが少しずつ意識し始めた時にスローで彼の煽り上半身が写る。
その時の映像の陶酔感。

フレデリック・レイトンのような絵柄が素晴らしい。
ギリシャ彫刻を模しているのかもしれない。



このようにあちこちに伏線が張られていて、
前半退屈だと思っていた部分が、丁寧に意味のある作り方をしていて、手の込んだ脚本だった。



恋に陥るのに理屈はない。

美青年だからとか、異性だからとか、同性なのにとか、
そんなこととは関係なく、突然の衝動にかられる。

誰もが経験すること。


エリオにとっては、オリヴァーがギリシャ彫刻のような理想、に思えたのだろう。





二人の恋が成就しても、それは夏限定の、限られた時間の恋。
いずれは別れの時が必ず来る、その苦しみ、

それと知りながら今この時だけだからと、その欲情に身を任す、痛みにも似た思い。


お互いに意識していたのに、正直に言えず、お互いに警戒していたこと。
もっと早く分かり合えていたら、もっと…


けれどもそれは期間限定のものだから、背徳だから、はじめの一歩が踏み出せなかったこと…。

だからこそ、互いの胸に大切に育んでいたこと。




初めて抱き合った時、オリヴァーが言う、

君の名前で僕を呼んで。

エリオはオリヴァーをエリオと呼び、オリヴァーはエリオをオリヴァーと呼ぶ。

二人の魂が一つに溶け合い、
鏡のように二人は互いの中に自分を見ていたのだろうか。



初めてのベッドでカメラがパンアウトすると、壁に1981年の文字。

この頃、エイズが蔓延して、バッシングが起きていたころ。
このカメラの超絶なうまさ。




ティモシー・シャラメは演技をしているとは思えないほどの自然体。
俳優とも思えないほど。
その彼をカメラがいろんな方向から撮る。

そしてその彼が唯一、演技と言っていい、最後のあのラストの、長回し。
見事な演出。



…やがて別れの時が来る。
耐えられない苦しみだとは分かっていたことだけれど。



エリオの父が、エリオに語りかけるシーン。
誰もが、ここで、この映画に恐れ慄くだろう。

父はすべてを知っていて、エリオを励ます。

私たちはお前の味方だ、無理に忘れようとしなくていい、
感じた喜びを忘れるな、悲しみを捨てなくてもいい…

そして父は告白する。
私はその経験を逃した。自分を抑制してしまったと。



父はすべてを知って、その上でエリオを肯定する。
それは当時、エイズによって同性愛への偏見が加速していたから…。



夏が終わり、冬になる。
冬の情景の見事なカメラの美しさ。




オリヴァーから別荘に電話がかかって来る。
婚約したと。結婚すると。

エリオが父に(二人のことを)話したと言ったら、
もし僕なら強制施設へ入れられただろうと言う。

同性愛への当時の偏見の根強さを、ラストのラストに短く伝える、この脚本。



電話で二人は互いを互いの名で呼び合い、そして最後にオリヴァーは言う。
「何ひとつ忘れない」と。



冬、暖炉を見つめながらエリオは涙を流しつづける。

何ひとつ忘れないように、あの日々を記憶に残そうと、
痛みも喜びも、悲しみも、すべてを受け入れ、忘れることのないように。



******



イタリアの田園風景が素晴らしい。

町に車はあっても人はあまりいない。

人はいても人混みも少なく、まばらの町。
主人公たちは自転車で移動する。

少し家を離れれば、全く人のいない田園。まるで現実感のない世界。

遠い遠い、今では見られないような昔のような風景だ。



広大な別荘も、母が食事の支度をするのではなく、手伝いがいて、するらしい。

食事は家の外の広い庭の一角のテーブル。
考えられないような優雅な世界。



オリヴァーの結婚は「モーリス」を思い出させる。
監督だったアイヴォリーらしい脚本。


ユダヤ人である主人公たちにとってのギリシャ文明とは、どのような意味を持つのだろうか。

アプリコットの語源談義。

桃を使ってのマス〇〇〇ーション。

練られたアイヴォリーの脚本には驚嘆した。




最後の最後に、暖炉の前の彼を、母が呼ぶ。

そして彼は戻る、エリオに…。




スフィアン・スティーヴンスという人が書きおろしたという、テーマ曲も美しかった。


 

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サントラ

『君の名前で僕を呼んで』 オリジナル・サウンドトラック [ (オリジナル・サウンドトラック) ]


 

 原作

君の名前で僕を呼んで (マグノリアブックス) [ アンドレ・アシマン ]

 

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