Movie Maniacs

Blade Runner 1982
ブレードランナー

監督 リドリー・スコット
原作 フィリップ・K・ディック
未来デザイン シド・ミード
音楽 ヴァンゲリス
効果 ダグラス・トランブル

主演 ハリソン・フォード

02/10

 

この映画を最初に見たのは荻昌弘解説のテレビでだった。

それまでは、名前は知っていたものの、SFとはいえ宇宙が舞台ではなく、地味な印象があったし、未来風景は、日本人である私は、手塚治虫によってさんざん擦り込みが行なわれているから、特に目新しいものがないように思えた。
要するに、あまり興味が持てない映画、というスタンスだった。

しかしそのころはちょうどビデオの草創期であり、ビデオレンタルがまさに行なわれ始めた時期だった。そのビデオ時代に一躍脚光を浴びたのがこの映画だった。
私も噂を聞きつけて、テレビ放送時にはでは見てみようという気になったのだ。

 

前半は、思った通りのゆるい未来風景が続き、さしてどうということもない、と思った。

それが、テレビに身を乗り出すようになったのは、いつだったか。

レプリカントであるルトガー・ハウアーが、自分の作り主であるタイレル社長に会いに行き、要求が通らないと見るや、社長を殺してしまう…
そんな場面だった。

その時、レプリカントのルトガー・ハウアーは、社長を殺す時、その自分の作り主の唇にくちづけをした。
キスをしながら、自分の「父」を殺したのである。

その場面が、私にとって「ブレードランナー」のすべてとなった。

あの場面があったからこそ、ブレードランナーは特別なものになった。

 

今考えると、恐らくあの場面は、俳優ルトガー・ハウアーの創作ではなかったかと思う。
リドリー・スコットは俳優のアイデアを取り入れながら撮影をしたという。
後半の格闘の場面でも、あの鳩を飛ばすアイデアは、ハウアーのものだったという。
だから、あの父にキスしながら…という、あの場面はハウアーのアイデアだったとしても、おかしくない。

あの場面を見てから私は急に襟を正し、ブレードランナーはすごい、と思い始めた。
そして勿論クライマックスの死闘。
ハリソン・フォードがまさに危機一髪に陥った時にハウアーがしたこと。そして、そのあとのセリフ。そして飛んでゆく鳩…。
何もかもがショックだった。

酸性雨が降りしきる中、生を終えてゆくレプリカント、ロイ・バッティ。
クールでアジア的な未来風景の中でひとり屹立するルトガー・ハウアーの姿は神々しかった。

そうだ…私は、「ブレードランナー」で何を見ていたか。ルトガー・ハウアーだけを見ていたのだ。彼しか見ていなかったと思う。

それほど、ハウアーの「登場」はショッキングだった。

 


あの圧倒的な思い出も、やがては消えて行く
雨のように、涙のように
その時が来た

まるで詩を口ずさむようにそのセリフを呟き、そしてロイ・バッティは生を終えた。
映画を見ることの最高の喜びは、このような場面に出会うことである。

 


追加

その後、「ブレードランナー」は映画館で見て、それから「残酷場面復活版」を偶然ではあったけれども別の映画館で見て、さらに何年かの後、ディレクターズ・カット版を再び映画館で見た。

ビデオも3つのバージョンを持っている。

2度目に見に行った映画館で何気なく見ていて、それが残酷バージョンだと知った時の興奮は、今でも覚えている。

 

当時、レンタルビデオでレンタルされていた普通バージョンのものとは別に、残酷場面が入っている版があるという話は聞いたことがあった。
あまりにも残酷なので、カットされたというのだ。

ハウアーがタイレル社長を殺す場面で、指を眼窩に突っ込む場面、レプリカントの仲間(女)が殺される場面など、数ヶ所あった。

ビデオでは、指を眼窩に突っ込む所がフクロウのアップに差し替えられている。

それが、映画館でなんの断わりもなく残酷バージョンが上映されていたのだ。何となく得をした気分になったものだ。

 

ディレクターズ・カット版は監督のリドリー・スコットが、もともと作りたいように作れなかったのを理想の形にした、と言われたバージョンで、かなりの改変がされている。

まず、ハリソン・フォードのモノローグがすべてカットされており、ラストシーンがなくなっている。その分、短くなっている(はず)。

オリジナルのラストシーンはカメラが草原を走ってゆくスカイカム・カメラの映像だが、何かのほかの映画の余った映像だとも言われていた。

ディレクターズ・カットでは、ラストシーンは確か、ショーン・ヤングが一角獣の折り紙をぽとりと落す場面だったと記憶している。

私はこのディレクターズ・カットはあまり好きではない。

リドリー・スコットはモノローグが説明的すぎるとして嫌だったらしいが、私はメランコリックなハリソン・フォードのモノローグが嫌いではなかった。

 

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