Movie Maniacs

ルキノ・ヴィスコンティ2002

2002年にNHK衛星放送で放送されたヴィスコンティ監督特集の時に書いた記事です。

02/5/25-07/1/20
再録

金曜日朝、朝食を食べながら新聞のテレビ欄を見ていると、NHK衛星放送BS2でルキノ・ヴィスコンティのドキュメンタリーと「ベニスに死す」の放映の記事。
これはヴィスコンティ特集ではないか!…と驚く。

BS2ではこの間市川雷蔵の特集を組んだばかり。その上に再びこんなことが?
こんな奇跡も時には起こるのだった。

テレビ番組雑誌などは買わないし、またテレビ自体も好んで見ているわけではないので、テレビ番組に関する情報には疎く、当日になって初めて番組の放送を知ったのだった。

 

私にとって、ルキノ・ヴィスコンティは後にも先にも唯一の監督であって、無二である。
ヴィスコンティ以上の監督は、以前も今も、かつてもこれからもいないだろう。

映画好きの人が、最も好きな映画監督と聞かれて答えるのは、大ていフェデリコ・フェリーニであり、ベルイマンであり、少しひねってウディ・アレンなどだった(私はきらいだが)。
映画通の好みからすると、私はかなり偏ったというか、大幅に王道からずれているのだった。
自分ではいっぱしの映画通のつもりだったのだが、生来の好みがこんな監督の評価にもいつの間にか現れてしまうのだった。

しかし、そんなヴィスコンティ・ファンを自認している私だが、映画はそれほど沢山見ている訳ではない。もちろん全部は見ていない。
はっきり言うと、いわゆる「ドイツ3部作」以降の作品しかきちんとは見ていないのだ。

初期の「揺れる大地」は、映画館のヴィスコンティ特集で見たような気もしないでもない。
「若者のすべて」は子供の頃、テレビで放映したのを見た記憶がある。
「山猫」もノーカットのテレビ放映を見たと思うのだが、放映中にお風呂に入ったりして(笑)全編見てはいない。

好きな監督の作品なら是が非でも見たいだろうと思うのだが、そうでもない。
出演者等が原因により、見る気にならない作品もある。
何より「ドイツ3部作」の印象が強烈すぎ、それでヴィスコンティ像が確立してしまったから、それ以前の作品は見る気にならないのだと思う。

***

1976年にヴィスコンティが亡くなった時は絶望し、映画自体に興味がなくなった。

あの頃は、信じられないことに、ヴィスコンティ作品の受難の年月だった。
1971年の「ベニスに死す」以降、彼の監督作品は、日本ではまったく公開されなくなった。
そして日本公開がないまま、ヴィスコンティは亡くなってしまったのだ。

映画に将来はもうない。
私はそう思い、映画を断った。

これ以降映画の歴史において、ヴィスコンティ以上の監督が出るか。
出るはずがない。
彼の映画以上に心の踊る映画が出るか。
当然出るはずがない。
だから、私は映画に興味を失ってしまった。

喪に服していた76年から数年間は、だから私の映画白紙の時代である。
復帰したのは、79年の「ディアハンター」によってであったが、それはまた別の話になる。

 

78年に思いがけず、ヴィスコンティの74年度作品「家族の肖像」が公開され、以後次々に未公開だった作品が日本で上映され、同時にヴィスコンティの再評価というか、ブームがやって来た。
当時のクイズ番組「アップダウンクイズ」の問題になったくらいであった。
曰く
「○○や○○という作品で有名な、イタリアの貴族出身の監督といえば?」
という風な具合。

とにもかくにも、クイズにまでなるくらいのブームは私には嬉しいことだった。

もちろんヴィスコンティ作品もビデオになっている。
当然私はそれらを揃えている。
それでも表でヴィスコンティ上映会のようなものがあれば出かけていた。
しかしテレビでの放映は、随分久しぶりなのではないだろうか。

 

ヴィスコンティのビデオに関しては色々な問題があり、私としても大きく文句を言いたいのだが…、今回の「ベニスに死す」の放映が、一つの解答を与えてくれている。

テレビ番組欄を見た時から、これはもしかして…
と私は大きな期待を抱いたのだった。

ありていに言うと、ワーナーから出ている市販の「ベニスに死す」は、何とトリミングバージョンなのだ。
あのパナビジョンサイズの画面の陶酔は、市販のビデオからは到底窺い知ることが出来ない。
それでもヴィスコンティはヴィスコンティ。
どんなに画面が覆い尽くされたとしても、その凄さをすべて損なうことは出来ないのだ。
その信念で約半分の画面になっていても、私は我慢していたのだ。

しかし、BS2の放映は、極めて怪しい。
時々思いがけないことをさりげなくすることが、これまで再々あった。
もしかして…。
あの「ベニスに死す」のノートリバージョンが放映されるかもしれない!!
もしそうなら近年にない椿事!!

エクスクラメーションマークを一人で散らして興奮する私。

仕事から帰るなり、厳かにHGビデオをセットする。
素晴らしいドキュメンタリー(後日必ず書くのだ!)。
そしてその後の…。

思っていたとおり、「ベニスに死す」は見事にノートリミング場面で蘇っていた。
完璧である。
ありがとうBS2!ありがとうどうも君!

途中、お風呂に入ったが私は満足した。もちろんビデオに撮った。
S-VHSのハイグレードでなく、3倍速だったのが我ながら心残りだが。

人によっては、ヴィスコンティは退屈だと言うだろう。
いや、多くの人にとってヴィスコンティは退屈なのだろうと思う。
「ベニスに死す」など、何のアクションもない映画なのだ。
あまりに何も起こらないから、ヴィスコンティ自身も無理やりエピソードを拡大して何とか繋ごうとしているくらいだ。

そんな退屈な映画の、どこが面白いのだろうか。
私にとっては、ヴィスコンティの映画の画面の、一瞬一瞬が驚きで、一瞬一瞬がスリリングなのだ。
一瞬たりとも目が離せない豊穣な画面の連続、それがヴィスコンティ映画だと思っている。

これ以上のことは、改めて書くしかない!。

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