手紙を書く男
ハブリエル・メツー
Gabriel Metsu
Man Writing a Letter
2020/6/21
ハブリエル・メツーの名を初めて知ったのは、「美少年美術史」というタイトルの文庫本だ。
フェルメールと同時代のオランダ風俗画家ということだった。
どおりでフェルメールそっくりの絵を描く。
繊細な室内描写、構図、題材などが言われてみなければ分からないほどフェルメールそっくりだ。
一つだけ違うのは、人物が男性だということ。
美少年ではないが、伏し目で手紙を書いて、少し斜めに座った青年は、十分に美青年である。
フェルメールの絵のヒロインをそのまま男性にしたような絵。
「美少年美術史」に掲載されていたメツーの作品は、まるでフェルメールが男性を描いたかのような驚きがあり、
ひときわ目を惹いた。
2019年5月ころ、大阪市立美術館で「フェルメール展」が開催されていた。
その中に、このハブリエル・メツーの「手紙を書く男」がなんと、展示されていたのだった。
思いがけないことで、うれしくてたまらなかったことを覚えている。
実物は、フェルメールの作品同様、あまり大きくはない。
だが繊細な室内描写は、輝くばかりであり、丁寧な筆遣いで、画家の力量が非凡であることが一目で見てとれた。
メツーの他の作品も展示されていたが、すべて女性を題材にしたものばかりで、
男性が主人公の絵は、この絵のみであった。
そして、その、ほかの絵はフェルメールほどの求心力はなく、単なる模倣と言っても仕方のないものであった。
「手紙を書く男」のみ、突出した力作のように思われた。
文字通り、メツーの代表作であり、かつ最高作と言っても良いのではないかと思えた。
なぜなら、室内描写がため息が出るほど丁寧で細かく、絵の具は輝くばかりに美しい。
机に掛けられたテーブルクロスの驚くほど細かい描写、開いた窓の向こう側の地球儀、
壁に掛けられた絵の額縁の鈍い光を放つ金色。
青年の少し気取った感じに座ったポーズも惹きつけられる。
何より青年の長い栗色の撒き毛や、伏し目が美しい。
同時代の絵で、もちろんフェルメールも含み、青年を主人公にした絵はこれ以外、思い当たらない。
そういう意味でも、これは貴重な作品ではないだろうか、
そんな風に思われた。
当時の肖像画は寓意も含んでいる。
壁に掛けられた絵が、青年の恋の行方を暗示している。
そういう意味では、風俗画の一種と呼んでもいいのだろうが、
青年の、椅子に身体少しをねじって座るポーズが、心なしか、そこはかとない官能を感じさせ、
またとない肖像画として、忘れがたい印象を残していた。
美少年美術史 禁じられた欲望の歴史 (ちくま学芸文庫) [ 池上英洋 ]
1,045円
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