Figureskating Superstars

トリノ・オリンピック まとめ アイスダンス 06/4/3

アイスダンスは私の一番好きな競技。ところが蓋をあけてみれば、転倒が相次ぎ大荒れ。けれども結果はそこそこの下馬評通りに落ち着いたのだった。
一説によるとトリノのパラヴェーラ競技場の氷が良くなかったという。

それでは、撮りだめしたトリノのビデオを見ながらまったりとお読み下さい。


アイスダンスは、フィギュアの競技の中で唯一、3種類の演技を行なう。
コンパルソリー、オリジナルダンス、フリーダンスで、コンパルが20%、オリジナルが30%、フリーが50%の割合で得点に加算される(多分…正確ではない…、まあこんなもんかと)。

ロシアの世界選手権2連覇のナフカ・カスタマロフが本命で、急に力をつけて来たアメリカのベルビン・アゴスト、怪我から復帰のブルガリアのデンコワ・スタビスキー、フランスのデロベル・シェーンフェルダー、カナダのデュブレイユ・ローゾン、イスラエルのチャイト・サフノフスキーなどがひしめき合うほか、カムバック組のリトアニアのドロビアズコ・ヴァナガス、地元イタリアのフーサルポリ・マルガリオが話題。
フーサルポリがどこに入るのかで注目された。

 

コンパルソリー

コンパルソリー(規定)は、2分ほどの演技で、課題曲が出され、全員が同じ動きをする。リンクを「ひょうたん型」に2周して、その軌道がずれないようになどの決まりがある。
オリンピックの課題はラベンズバーガー・ワルツ。

コンパルソリーは、アイスダンスニワカ泣かせ、初心者泣かせの競技である。
分かるといえば分かる、分からないといえばさっぱり分からない。

全員が同じ動きで踊るから、退屈といえば退屈。どのカップルを見ても同じように見え、違いが分からない。見続けていると、そのうち気が狂いそうになる。
フィギュアスケート初実況の森アナも多分発狂したに違いない。
しかし、上位のカップルと、そうでないカップルの演技の違いがはっきりするので、逆に言えば分かりやすい競技でもある。

課題がワルツなので、各組は社交ダンス風の燕尾服に女性が露出の多い衣裳で登場し、リンクはさながら舞踏会場のような華やかさがあり、アイスダンスならではの雰囲気だった。
中ではブルガリアのデンコワ・スタビスキーの衣裳が異色だった。お金がないので他の演目の時の衣装だったのか。
また地元フーサルポリ組がサーカスみたいな場違いな衣裳だったのも特筆される。

 

イスラエルのチャイト組の女性がエッジを何かに引っ掛けたようになって転倒。コンパルでの痛い減点になり、不運なスタートとなった。
ハンガリーのホフマン・エレック組では、森アナの名(?)実況「123、123…」が聞けた。

地元イタリアのフーサルポリ・マルガリオ組がトップに踊り出て話題になった。2位はナフカ組、3位がデンコワ組。

ナフカはユーロ(ヨーロッパ選手権)でもコンパルを3位発進だったので、或いはコンパルが不得意なのかもしれない。
フーサルポリ組は無難にまとめたが、地元選手ということでご祝儀点が出た。

デンコワ組、ウクライナのグルシナ・ゴンチャロフ組、デュブレイユ・ローゾン組が、優雅でエッジの深いダンスを踊り、良い出来だった。
ご祝儀点がなければこの3組がトップだったと思う。

 

オリジナルダンス

オリジナルダンスというのは、2分半ほどの演技で課題曲が決められていて、オリンピック(今期)での課題はラテン・コンビネーション。
(課題曲は年ごとに変わる)

曲の選択は自由だが、ラテンのステップのルンバやサンバ、チャチャチャなどの曲から2つまたは3つの曲を選び、メドレーで踊ってゆく。
ミッドラインステップ、ツイズル、コンビネーションスピン、リフト、回転リフトなどが必須要素。

各組、ラテンの明るいムードを出すのに赤系の衣裳が多い。

オリジナルでは思いもよらない転倒シーンが続出し、波瀾を呼んだ。

復帰組のドロビアズコ組が終盤のステップで転倒。順位を大きく下げた。
彼等はユーロでナフカ組に次いで2位に入ったので、メダル候補にも上げられていただけに、痛恨のミスだった。
ソルトレイク直後に引退、それまでなかなかメダルに恵まれなかったので、今回がチャンスと見て復帰を決意したのだろう。残念だった。

もう一組メダル候補であったチャイト組は上手く滑り切ったが、デンコワ組は転倒はなかったものの、コンビネーションスピンでミスをし、スピンがほとんど抜けた。

最終グループになるとますます荒れ、地元イタリアのもう一組、ファイエラ・スカリが二人で転倒。
メダル候補であったデュブレイユ・ローゾンの女性が最後の回転リフトで落下・打撲、フィニッシュのポーズを取れないほどだった。そして、彼らはフリーを棄権することになった。不運というほかない。

ナフカ組はかろうじて滑り切り、コンパルと合わせてこの時点でトップに立つ。
ベルビン・アゴストも笑顔で滑り切り、2位につけた。
3位はグルシナ組。

だが、次の地元フーサルポリ・マルガリオが、最後のリフトでまたもや転倒。

彼らはソルトレイク銅メダル、その時転倒があり、無念の涙を飲んだ。
地元イタリアでの開催に合わせて復帰して来て、イタリア人の期待を担っていたが、テクニックがついて来なかったようだ。
女性のバーバラはとても上手なのだが、マルガリオがよたよたで、ついていくのに精一杯という感じだった。
フィニッシュのあと、バーバラがマルガリオを睨みつけたのがマスコミで話題になった。

ダンスの場合、男女二人がともに転倒すればデダクションが2になってしまう。
そのほかリフトのタイムオーバーでも減点を取られる。このルールやエレメントの設定基準は何とかならないものか。

オリジナルダンスでは、ノーミスで滑り切った者が抜け出たというサバイバルレースみたいになってしまった。

 

フリーダンス

フリーは4分ほどの演技時間で、曲を自由に選べる。入れる要素は決まっており、オリジナルの時と同じようなツイズル、ステップ、リフトなどを使って滑る。

日本から渡辺・木戸組が参加。「マイフェアレディ」を踊ったが、衣裳が何とかならんか。
それから渡辺選手のヘアスタイルも、デコを出してアップにした方がいいような気がするが。木戸選手はいいキャラ。

演技自体は雰囲気が良く出ていて悪くなかった。総合で15位は、日本人選手で最高位である。これは、快挙と言って良いだろう。
あのナフカ・カスタマロフでさえ、最初の頃は13、4位だったのだ。

 

フリーダンスは、BSでも民放でも全選手の放送をしなかった。他の競技が押して来て、時間がずれたためだ。したがって私が見たのは第3グループあたりからか。

アメリカのグレゴリー・ペチュホフ、以前アニシナ・ペーザラーが踊った「ロミオとジュリエット」(プロコフィエフバージョンだったかな)を、同じようなコスチュームで頑張って踊った。
男性が遠目で見るとイケメンだったが、キスクラが映るとがっかりした。

カナダのウィング・ロウは、グランプリでは「コッペリア」のプログラムで、かつてのラハカモ・コッコを思わせるようなユーモラスな演目だったが、オリンピックではタンゴに変えた。
点数が思うように伸びなかったのだろうか。なかなかいいプロだったので残念だったが、タンゴも悪くない。このカップルは順位よりは上手いのではないかと思った(総合11位)。
オリジナルダンスも良かった。

カー姉弟はトーヴィル・ディーンの国イギリスのカップルで、振り付けがディーンなので、密かに話題だった。不思議な雰囲気のカップルで、スコットランド民謡に合わせて複雑なステップを次々と繰り出した。洗練されれば必ず上位に行くチーム(10位)。

ロシア(?)のホフロワ・ノビツキーは、そのトーヴィル・ディーンの伝説のプロ、「ボレロ」のフラメンコバージョンを踊った。若いカップルで、悪くないがこれからの組。

次のグループでは、ドロビアズコ組がサントラで「オペラ座の怪人」を踊った。すごいスピードで滑り、さすがにプロだけあって見栄えのするプログラムだった。しかもエレメンツもよくこなし、終盤は苦しくなったが、遊びで復帰して来たわけではないことを示した。(7位)。
マルガリータは以前はショートヘアで、美人だが暑苦しいルックスだったが、今回髪を伸ばして優雅な雰囲気。オリジナルでの転倒が響き、不本意な順位は少し可哀相だった。

もうひとつの復帰組、地元のフーサルポリ組は、「プリンス・オブ・エジプト」。どちらかと言うと、最後まで滑れるのか、と心配だった。
外野では、オリジナルの転倒があったので、棄権するのではないかと言われたりしたが、さすがに笑顔で滑り、最後は互いを称えあった。
この組は、女性のバーバラが本当に上手い。だがマルガリオがついて行けない。要素の難度をマルガリオに合わせなければならないのが歯がゆい。
総合6位だったが、これですら地元ご祝儀の点数だろう。

イスラエルのチャイト・サフノフスキーは、オリンピックの勝負年にこれも伝説の「ボレロ」を選び、話題になった。
いい出来ではあったが、コンパルの転倒が響き、追い上げられなかった(8位)。このカップルも不運と言って良いだろう。
キスクラにはアレクサンドル・ズーリンとエフゲニー・プラトフがいて豪華。

 

最終グループはウクライナのグルシナ組から。
ピーター・ガブリエルの中近東風の音楽で、グルシナがわずかにおっぱいを隠しただけの露出の多い衣裳。
スケートが滑らかで良く滑り、流れがあるが、単調な音楽がひたすら盛り下がり。音楽のせいで退屈に思えてしまった(3位銅メダル)。コーチ(振りつけ?)は荒川静香と同じニコライ・モロゾフ。

ロシアのナフカ・カスタマロフは「カルメン」。とにかく衣装が豪華。カスタマロフのコスチュームで勝負に出たか。
このカップルの見所は何といってもタチアナ・ナフカの美しさ。
スリムで足が長く、顔が小さく目が大きく、絵に書いたような美人。コーチのズーリンの妻で1児の母。
彼女があんなことやこんなことをするだけでみな喜ぶ。
所々よろけたが、危なげなく滑って金メダル。
ただこのカップルは確かに評価は高いが、情感という点ではゼロのような気が。

ところでナフカは30歳という話だが、彼女はオリンピックが確か4回目だ。絶対にさばを読んでいるとニラんでいる。

次に滑ったのがデンコワ組。「アルビノーニのアダージョ」を素晴らしいスピードで踊りきった。エッジが深く流れがあり、エレメンツの境目で途切れがない。だがリフトのタイムオーバーが2度もあり、あえなく撃沈(5位)。
このチームは男性のスタビスキーが殆どひとりで踊る。チビなのに元気。

アメリカのベルビン・アゴストは、タニス・ベルビンが美人。張り付き笑顔で「フラメンコ」をものすごいスピードで滑った。だが、グランプリシリーズの時の方が私としてはいいように思った。こうして他のカップルの滑りと比べて見ていると平凡というか、棒が踊っているように思えてしまう。味気ないというか。でも銀メダル。

最終滑走はフランスのデロベル・シェーンフェルダー。中世の宮廷を思わすようなものすごい衣裳で登場して、あっと驚かせた。女性のルックスがいまいちというか、ちょっと恐い。しかしヘアスタイルも凝りに凝っていて、どうも見た目で勝負をかけてきたようだ。
ベニスのカーニバルがテーマで、素晴らしい音楽。凝った演出のダンスで、見た目は面白い。
だがメダルに届かず4位になり、イザベルがキレていた。こわー。

 

というわけで、一押しのカップルがいないまま、盛り下がるような気がしていたトリノオリンピックのアイスダンスだったが、各国の各組が趣向を凝らせて、トリノのリンクを素晴らしい舞踏会場に変えてくれた。

不運なカップル、実力を評価されないカップル、幸運なカップル、ご祝儀をもらったカップル、いろいろだがそれもまた人生、それもまたオリンピック。

アイスダンスは本当に楽しい。競技でもあるから、勝ち負けは確かにある。でもアイスダンスは勝ち負けだけで終わるのではなく、見る者に幸福を感じさせてくれる競技だ。

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