Figure Skating Superstars

Igarashi - san
ボーナストラック  解説の五十嵐さん 02/3/26

 

いつもNHK杯や、冬季オリンピックのフィギュアスケート解説をなさっている五十嵐さんとは何者だろうか。
ここでは解説の五十嵐さんを解説する!

 


 

世界選手権は、ずっとTBS(ウチの地域では毎日放送)が放送権を持っているらしくNHKは放送したことがない。
だから五十嵐さんは、世界選手権の解説はなさらないのであるが、日本で世界選手権が開催された記念(?)として、五十嵐さんにスポットライトを当ててみたい。

ここに一冊の本がある。
長野オリンピックの直後に発売された本で、現在は絶版のことと思うが

タイトル 「五十嵐文男の華麗なるフィギュアスケート」 98年刊

 

この本によると、五十嵐さんは

本名 五十嵐文男

ハンドル 解説の五十嵐さん

1958年生まれ
慶應義塾大学商学部卒業
鞄d通勤務(98年現在)

80年、81年NHK杯優勝
81年世界選手権4位

82年プロに転向、82年プロフィギュア選手権優勝

82年よりNHK杯解説
88年より冬季オリンピックフィギュアスケート解説

 

こうして見ると、五十嵐さんは、信じられないかもしれないが、もとはフィギュアスケート選手だったのだ。
しかし考えてみればそれは当然のことだ。
何の関係もない、医者や文学者がスケートの解説をするはずはないのである。
もと選手であるからあのように詳しいのである。

*

私は実は五十嵐さんの現役時代をうっすらと覚えている。
何となく、滑っていたということを記憶しているのだ。
滑りの印象としては、しなっと柔らかく、お尻が出ていた(笑)ようなことを覚えいる。

しかし彼は現役時代よりも解説者生活の方がさらに長い。

「冬になるとNHKで解説してるから、よくNHKに勤めていると思われるんですけど、違うんですよ」
(前掲書)

大手広告会社の営業マン(98年現在)だということである。
フィギュアの解説という仕事を専門にしているのかと思ったら、夏場は会社づとめをしているのだという。

*

さて、写真を掲げた前掲書はどういう内容かというと、著者は白石和己というジャーナリスト(らしき人)で、五十嵐さんにインタビューをして、フィギュアスケートの楽しみ方、選手のエピソード、有名選手についての五十嵐さんのコメントを聞くという構成になっている。

フィギュアスケートについての突っ込んだ、専門的で技術的なことは書かれていないが(ジャンプの見分け方など)、五十嵐さんの経験から、選手の試合でのメンタルな部分や心理、ライバルに対する気持ちなどが語られているのは、それなりに興味深い。

記述にはあまり関係なく選手の写真も満載。
長野オリンピックの直後の出版なので、イリヤ・クーリックの写真が多い。

しかし何と言っても五十嵐さんの選手生活を語った部分が面白い。
戦った選手たちとの裏話、コーチ選び、試合の時のコンディション、等々。

彼が活躍していた時期は、70年後半から80年始め、ロビン・カズンズ選手がライバルで、スコット・ハミルトンがちょうど出て来た時。彼らライバルがいたから自分も切磋琢磨して頑張れたと語る五十嵐さん。
ロビン・カズンズとは仲が悪かった(笑)と言いながらも彼のようなライバルと出会えて良かったと。

また、スコット・ハミルトンに関しては、「観客を楽しませてハッピーな気分にする明るい選手だった」
スコットはとても気のいい人で、仲が良かったようだ。
「彼が素晴らしかったのは、勝つようになってからも、その性格の良さを失わなかったこと」

癌を克服して、ソルトレイクでも元気な姿を見せてくれたのは、衆知の通りだ。

*

 

さて解説者としての五十嵐さんはどうであろうか。

始めのころは、彼の解説もぎこちなかった。
喋り始める場所、タイミング、解説の長さ、内容の適切さなど、聞く側としては時々じれったくなることもあったりした。
リレハンメルオリンピックの時でも、まだ多少どうかというような部分もあった。
ただ初期のころから落ち着いた、何物にも動じない冷静な解説ぶりは際立っていたと思う。

しかし、シングル競技の時に、選手が飛んだジャンプの種類を"トリプルアクセル"、ステップを"サーペンタインステップ"、などとひとこと言うだけの解説に、いつしかありがたいと思うようになっていた。

五十嵐さんも解説の場数を踏んで、だんだんとどういう解説がベストなのかを学んだのではないか。
そのことが偉いと思う。

選手の競技中には余計なことは言わない。

これが五十嵐さんの解説の極意だと私は思う。

 

解説者がだらだらと解説をしているうちに、選手の演技のクライマックスが終わり、演技も終わってしまうことがある。
そういう時は、解説の言葉が気になり、気が散って、選手のとても素晴らしいかもしれない演技に集中して見入ることが出来ない。

解説の言葉が入ると、見ている側はどうしてもそれに注意が向いてしまい、せっかくの選手の演技を見るのに気が散ってしまうのである。
解説をする時、それだけはやめて欲しいと思う。

フィギュアスケートは芸術的な要素の多いスポーツだ。また約束事も多い。
解説を必要とするむつかしい部分もあるにせよ、私たちはおおむね、一つの「作品」を見る気持ちで選手の演技を見ていると言ってもいいかと思う。

そういう時、選手が一つ一つのプログラムの構成要素をこなしているのを無視して(或いは無視せざるを得ないのだろうが)、解説の言葉を喋り続けるのは非常に迷惑だ。

見ている側が最も望んでいるのは、その選手の演技をよく見たい、ということなのだ。

よく見たい助けのために、解説があるべきだと思う。
そのところを五十嵐さんは、まるで痒いところに手が届くように、私たちが求めるものを完全に理解して解説してくれる。
そこが五十嵐さんの偉大なところだ。

たまに、選手の演技中にアナウンサーが五十嵐さんに解説を振ることがある。
しかしそんな時も五十嵐さんは必要最小限のことしか言わず、なるべく短い言葉で終えてしまう。
そこに感動する。

普通の解説者なら一言で終わることが出来ず、だらだらとまのびしたお喋りをして、選手の演技の次の重要なエレメントにかぶってしまい、私たちの気を散らせずにじっくりと見たいという望みを断ち切ってしまうのだ。

要するに、解説には選手の演技の邪魔をしていただきたくない。
それだけだ。

五十嵐さんはそのことを把握しており、そしてまた、知りたいと思うことを適切に短く、教えてくれる。
それはジャンプの種類だとか、スピンの名前とか、そういうことである。

私たちが知りたいと思うのはまさにそういうことなのだ。

選手が演技をしている間は、そういうことだけを知ればいいと思う。
選手が、前の大会で何位になったとか、奥さんがいるとか、怪我を克服したとか、そういうことはなるべく演技のあとか、先に言っておいて欲しい。

また五十嵐さんは下位の選手の時には、ジャンプは何回飛ぶとか、スピンを何回入れなくてはならないとかの競技の説明をするが、上位の選手の時には殆ど言わなくなる。
それも素晴らしい。

下位の選手では、解説を入れないと見ている方が(退屈して)持たない、ということがあるのだ*。
また、下位の選手の時に競技について説明しておけば、上位選手の時にいちいち説明して興醒めさせなくて済むという、そういう配慮があるためだろう。

*私は下位選手を見るのも好きだ。
だから下位選手を軽んじているつもりはない。
事実として言っているまでである。

 

五十嵐さんは、選手の練習の時からプログラムを見て、その選手がどこでどのジャンプを飛び、どのジャンプが得意かなどを把握しておく。
それも下位選手から、何十人と出場する選手の演技を公式練習からすべて見て、放送の時には、下っ端の選手の時でも丁寧に解説を付けてゆく。

練習の時は飛べていたんですが…、とか、
練習では一度も飛べていなかったんですが…、
というせりふが時々五十嵐さんから出て来る。

下位の選手からちゃんと練習を見ておき、その選手の特徴を覚えているのだ。
その努力は驚嘆に値する。
それはまあ、アナウンサーも同じである。
アナウンサーも、本来ならここで4回転でしたが、トリプルアクセルに変えてきました…
などと言っているからだ。

フィギュアの解説は、そのような目に見えない努力がなされているのだ。

NHKのオリンピック放送では、文字通り一番滑走の選手からすべて放送されるため、フリーになると、放送は3時間くらい続くのではないか。
その間、五十嵐さんはずっと飽きもせず、丁寧な解説をつけている。
努力なしにはなし得ないことであろう。

今日もまた、五十嵐さんは膝の上に毛布を巻き、どこかの競技場で解説をしているに違いない。

 

解説者あれこれ

 

五十嵐さんの前には女性が解説を担当していたこともあった。

この女性解説者は、選手が一つのジャンプを飛んだあとの解説が長かった。
彼女がそのジャンプの解説をしているうちに選手は別のジャンプを3つ飛び、解説が終わらないうちに演技を終えた。
このような解説は具合が悪い。

今日、これに似たような解説をするのは佐藤有香である。
スケート選手としては優れているのかもしれないが、良い選手、即、良い解説者とは言えない、というのは事実である。
佐藤有香は、解説がのんべんとしている上、しゃべり方が間延びしているので、彼女の解説を聞いていると、選手までがだらだらとした演技をしているかのように思えてしまう。
これはかなり具合が悪い。

NHKでは、ペアと女子で彼女を解説に起用しているが、全部五十嵐さんでいいのに…と言いたいのをぐっと我慢する。

彼女はプロの選手でもあり、アメリカで活躍している。
それなら選手としてアメリカにいればいいものを、なぜわざわざ日本に帰って来て歯がゆい解説をするのかと問いたいのをぐっと我慢する。

***

伊藤みどりは、TBSにて解説をすることがある。

数年前、伊藤みどりの解説は伝説的であった。
しかし、今回の長野での彼女の解説は改善されていて、良くなっていた。
であるから悪口はよそう。

ただ、かつては選手が重要なエレメントを次々とこなしている間、伊藤みどりも必死になって喋る。
喋りが選手の演技に完全にかぶってしまっていたのだった。

渡部恵美も似たようなもので、かぶりにかぶるので、かぶりの恵美という異名があった。
(嘘である)

今回長野のアイスダンスなどで解説をした八木沼純子は、少し喋りが多いが、それでも舌がなめらかなので淀みがなく存外良かったので驚いた。もう少し口数が少なくなるとなお良い。
アイスダンスについても勉強をしていることが分かる解説であった(但しフランス組を来期も活動すると言ったのがペケだ)。

解説とはこのように、簡単なようでむつかしいものである。
ベストな解説は、何も言わない、という解説であろう。

***

また解説者ついでに、アナウンサーについてもひとこと言うと、あまりべらべらと説明するアナウンサーは迷惑なものである。
とにかく私は落ちついて選手の演技を見たいのだ。
選手の演技の間中、まるで喋っていなくてはならないと言わんばかりに喋り続ける実況はいかがなものか。

NHKの実況は上品である。
アナウンサーはよく勉強をしていて、過不足がなく喋ってくれる。
安心して聞いていられる。

TBSのアナウンサーは喋り過ぎである。その上間違ったことを言って八木沼純子にたしなめられていた。
うんざりするが、民放だからしょうがないのだろうか。

***

私のように、競技会場にじかに行けず、テレビで観戦しているだけの者にとって、テレビ放送は、フィギュアスケートを楽しむための唯一で最大の媒体である。
演技に感動したり、はらはらしたり、選手の悪口を言ったりするのが何より楽しい。

そうした時にテレビ観戦の補助をしてくれるのが解説と実況アナウンサーだと思う。
だから、彼らが選手よりも目立ってしまっては、選手の演技が楽しめない。
選手より目立つというのは、喋りすぎたり、だらだらと間延びをした解説で演技を大なしにするようなことも含む。

すべての解説者が、五十嵐さんのように落ち着いた、大人の解説をして欲しいと望むばかりだ。
もちろん五十嵐さんのように沢山勉強をし、経験をしないとそれはむつかしいと思うのだが。

***

最後に、つい最近、解説界に新しいアイドルが誕生しつつある。
樋口さんである。
彼はおかま口調でしんなりとした解説をする。
とても大人しく、解説と言っても「良かったですねえ〜」とか、「信じられませ〜ん」とか言うばかりなのだが、しかし、彼は「アイドル解説者」という新たな分野を形成しつつある。
もしかして、ニットの貴公子、広瀬光治にタメを張れる存在になるかもしれない。
樋口さんの可能性に期待したい。

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