Jane Torvil & Christopher Deen

ジェーン・トーヴィル&クリストファー・ディーン
(スペルが間違っていたらすいません)
02/2/7 06/2改訂

 

トーヴィル&ディーンは、伝説的なアイスダンスのカップルだ。

活躍は、70年代の後半から80年代半ば。私が、ロシア(当時ソ連)のカップル、モイセーワ・ミネンコフのアイスダンスを見て、この競技に魅せられてからしばらくして、英国から登場した。

当時のアイスダンスは、リフトは嫌われており、優雅な滑りが主流だった。
ロシアが伝統的に強い種目で、定評があり、圧倒的な強さを誇っていた。
その中でも私は、モイセーワ組の、ドラマを見るような美しさと危うさ切なさにあふれた演技に心底魅せられていた。
彼らの出ている競技番組を必死で見る、テレビ追っかけをしていた。

当時はビデオも衛星放送もないから、ただ放送されるのを待ち、テレビの前で見るしかなかったのだ。

そんな時、ある競技会で、英国から彼ら、トーヴィル・ディーン組が登場して来たのだった。

私は最初、彼らが好きではなかった。

優雅なアイスダンスの世界を、サーカスのような曲芸にした、と憤りさえ感じたくらいだったのだ。

彼らは、リフトが駄目なアイスダンスで、ぎりぎりのリフトを敢行したり、女性をくるくる廻したり、それこそ曲芸のようなことをしていた。

私は、
おいおい、冗談じゃない。そんな気持ちだった。

アイスダンスは、そんなじゃない。そんなアクロバットやお笑いの世界じゃないんだ…

彼らを見た私の最初の感想はそんなだった。

私の抵抗(?)にも関わらず、彼らトーヴィル・ディーンは、ロシア一辺倒のアイスダンスの世界で、徐々に上位に食い込んで行った。
圧倒的な強さを誇るロシアの牙城を崩すことは容易でない世界で、彼らは斬新さとテクニックで、またたく間に、評判をあげた。
そしてまもなく、サラエボが始まった。

私は相変わらず彼らを好きではなかった。

しかし、サラエボでは、彼らが「全員満点」を獲得するか、が話題になっていた。

オリンピックまでの世界大会などで、度々、彼らは審判から「全員満点」を得ていたのだという。
だからオリンピックでも全員満点の採点が出るか、というのがフィギュア界の関心の的だったのだ。

私がその一報を知ったのは、他にも書いたとおり、新聞報道でだった。時差の関係で、テレビ放送よりも新聞の方が一足先に結果を報道した。

その新聞記事は、詳細にトーヴィルたちの演技を紹介し、"…演技の最後でクリストファーが、ジェーンを何度も放り投げるようなしぐさをし…"
と書かれてあり、それを読んだ時はじめて、一体、どんな演技なのだろう!と、彼らの「ボレロ」への関心が、一気に高まったのだった。

翌日、私はアイスダンスのフリー競技を、録画セットして、テレビ画面を食い入るように見入った。

観客は、まだどのような点数が出るか知っていない。
固唾を飲んでトーヴィル・ディーンの演技を注目しているようすが手に取るように分かる。
異様な雰囲気の中で、「ボレロ」が始まった。

モーリス・ラヴェルの舞踊曲「ボレロ」は通しで演奏すると15分くらいだろうが、それを4分のダイジェストにしてある。
当時、アイスダンスのフリーを一曲で通すことは珍しく、技とステップにしたがって色々な曲を小刻みに使うのが一般的だったが、トーヴィル組は一曲で通した。

ボレロの単調なリズムが、張り詰めた緊張感をいやが上にも増幅させ、だんだんと雰囲気を盛り上げて行く。振り付けはクリストファー・ディーン自身。

彼らの規定すれすれのリフトといったアクロバティックな技が、ボレロのリズムと巧みに融合して、高い芸術性に昇華されている。
見ながら、これは、と私は思った。

アクロバット的な技と、芸術性との、高い部分での融合。

曲芸のような技がそのまま芸術になっている。
恐るべしトーヴィル・ディーン。
はじめて、彼らをすごいと思った。

そして最後。
クリストファーは、ジェーンの肩をつかんで何度も何度も、空中でくるくると回す。
放り投げるように、引き寄せるように、そしてリンク中央にくず折れるふたり。
衝撃的な演技に言葉もなかった。

フィギュアの採点は、プレゼンテーション(技術)とアーティスティック・インプレッション(芸術性)の二つからなる。
プレゼンテーションでは、5.9と採点した審判が幾人かいたが、次のアーティスティック・インプレッションがアナウンスされるや、電光掲示板に6.0がずらっと並んだ。

それは壮観だった。全員満点。

かつても、そしてそののちも、アイスダンスにおいて、いやフィギュアスケート全体でも、ずらりと、審判員全員の6点満点が並んだ、あんな光景は2度とない。
オリンピックの舞台でそれを成し遂げた彼らは、真に「アイスダンスの革命家」だった。

それから私は180度態度を改め、突然彼らのファンになった。
世界選手権など、フィギュアスケートが放送されるたびビデオを用意して彼らを撮りまくった。

普通アイスダンスの規定は、同じ動きをするだけなので退屈なものだが、彼らは違った。

規定ですら観客を沸かせ、興奮させる。目を見張るような技で、コンパルソリーでさえ見る者を飽きさせなかった。

トーヴィル・ディーンがあれほど革命児と言われたのは何故だったのだろうか。

ロシアが全盛のアイスダンスの世界でロシアの牙城を崩し、ひとり英国の彼らが気を吐いた。
私は、それは、クリストファー・ディーンの革命性だと思う。

 

ロシアのアイスダンスの通念では、とにかく女性が主役だ。
当時旧ソ連のアイスダンスでは、容貌の美しい女性選手は即アイスダンスへ振り分けられたという。

ソ連では、小さいころからスケートを滑らせ、能力のある子供を育てる。

その子供の資質を見て、シングル、ペアなどに振り分けた。
ジャンプ力やスピンなど、技術は劣るが、きれいでスケーティングがうまいという選手はアイスダンスにふられたのだろう。
(当時、テレビ中継を見ていたら、アナウンサーがしきりにアイスダンスでは女性が必ず美人なんですねというセリフを言っていたものだ)

またアイスダンスは、女性の美しさを引き出し、女性の魅力を見せる競技、そのような了解がソ連のスケート界、即ち世界のフィギュアスケート界にあった。

だから、アイスダンスにおいては、男子は添えものである。
男子は、女性の引き立て役で、脇役で、添え物で、刺身のツマである。

ソ連での男子選手は、シングル選手になれるほどスケートが上手でなく、ペアへ行くほど力もない、そんな男子が最終的にアイスダンスへと振り分けられたのではないか。

つまり、あまり上手でない男子選手にとって最終的に残されたポジションが、女性の引き立て役であるアイスダンスなのだ。
それだからか、ソ連のアイスダンスの男子選手は、徹底的に影が薄かった。

男子選手自身も、自分は女性の引き立て役にしか過ぎないというように考えていたのではないか。
「俺はジャンプもうまく飛べないし技術がないから、女性を目立たせる役割しか来なかったんだよな」的な、そこはかとなく、立場の弱さを自分から認めていたような、居心地の悪さを自ら認めていたような、そんな選手がほとんどだったような、そんな気がしてならない。

そこに、ソ連のそうした因襲から完全に開放されたイギリスのトーヴィル・ディーンが登場したのだった。

トーヴィル組とソ連のカップルの違いは、明らかだ。
それは、男子選手のクリストファー・ディーンの滑りによるものだ。

彼はソ連の男子選手と違って、明らかにダンスを楽しみ、自ら女性をリードし、アイスダンスの演技において完全に自分が主導権を握っていた。
ディーンの、滑っている時の表情を見れば一目でそのことを理解出来た。

彼はソ連選手のように、女性の影に隠れて、何となくこそこそとして、ダンスしか出来ないことを恥じているような、*

*もちろんそうではないに違いないが、影の薄さから、見ている者にそんな風に思わせてしまっていたのだった。

そんなそぶりは微塵もなく、堂々としていて、自分の演じているアイスダンスというものを誇りに思い、心底精魂を傾けてダンスに情熱を燃やしている。
そのようなことがはっきりくっきりと感じ取れるダンスをしていて、それが、見ている側の快感と爽快感に繋がったのだった。

男子が女性の添え物でダンスをしている、というような考えや引け目が彼にはひとつもない。
むしろディーンは、積極的にダンスと向かい合い、女性を引っ張っていた。

はじめはそれが何故なのか良く分からなかったのだが、競技中継の解説で、ディーン自身が振り付けをしている、ということを聞いた時、なるほどと納得したのだった。

彼は、自分で工夫して、自分たちに合ったダンスを創作した。主体的にダンスに関わっていたのだ。

クリストファー・ディーンは、ビートルズを生んだ国の人らしく、自分に与えられた天分を、いかによりよく発揮するか、そう考えずにいられない性格の人だったのだろう。
より新しい、より人を楽しませるような、より上を目指さないではいられない、そんな工夫好きのアイデアマンだったのだ。
だからソ連の固定観念から解き放たれた、自由で革新的なダンスをあみ出すことが出来たのだと思う。

 

アイスダンスを見る時、いかにいいダンスかを見分けるには、いかに男子選手に気合が入っているか、男子選手がどこまで頑張っているかで判断出来る。
トーヴィル・ディーンを見てから私はそう考えるようになったのだった。

理屈っぽくなってしまったけれど、サラエボのT&Dにそんなことを感じ、彼らを追いつづけた日々があったことを、なつかしく思い出した。


素人の書いた文なので、記述に間違いや思い違いがあれば申し訳ありません(汗)。

また煩雑さを避けるため競技のルールは詳しく書いてません(汗)。

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