フィギュアスケート的快楽
はじめに…
もう今では誰も知らないと思うけれども、昔、モイセーエワ・ミネンコフというアイスダンスのペアがいた。
このペアをテレビで偶然見たのが、私がフィギュアスケートに興味を持ったきっかけだった。
NHK杯だったか、世界選手権だったか、もう覚えていない。それまで特にフィギュアに興味なく、アイスダンスという競技があるという事もまったく知らなくて、ただ漫然とテレビの画面を見ていたとき、そのモイセーエワ・ミネンコフというペアが映っていたのだ。
それは、もうひとつのドラマで、4分間の映画を見ているような、芝居を見ているような、それらを凝縮して見ているような、濃密なドラマがそこにあったのだった。
何も知らずに見ていながら、私はその二人の演技に引き込まれてしまった。
それが、きっかけだった。
二人の演技は美しく、妖しく、見ている者にさまざまな想像をめぐらさせる、幻想的なものだった。
彼らは、しばらくワールドチャンピオンだったが、私が知る限りでは、技術的な問題だとかで(両足をつけて滑っている時間が長すぎるとかいうような事だったと思う)審判員達から総バッシングを受け、アイスダンス界から消えたのだったと記憶している。
その時私は、人に感動を与え、喜びを感じさせる選手であるなら、技術的にどうのと、細かい事を言わなくても…思ったものだったが…
いずれにしても、彼らによって、私はアイスダンスというものの存在を知り、またフィギュアスケートというものに興味を持ったのだった。
それはトービル・ディーンが現れるほんの少し前のことだった。