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Nicolas Poussin
ニコラ・プッサン
アルカディアの牧人
1638-9年
Et in Arcadia ego
ルーブル美術館
アルカディア…どこかで聞いたことのある名前。
「キャプテン・ハーロック」の宇宙船がアルカディア号だった…
アルカディアというのは、理想郷のこと。
神話の世界、牧人が住むという理想郷、その世界に大きな墓があり、そこには「我アルカディアにもあり」
という墓碑銘が刻まれている。
そしてそれに牧人たちが気づき、読み、思いにふける…という場面を描いたもの。
われ、とは死のことであり、このような理想郷でも死はまぬかれぬものなのだ、という、いわば教訓めいた
絵画なのかもしれない。
健康的な若者たちが、この墓碑銘を読むというシチュエーションに、人生のはかなさを表現したのだとも言われる。
━われは、死は、理想郷アルカディアにもあり━
その言葉に気づき、はっとして驚く若者、そして憂いを感じる若者、まさか…と、「死」が自分の身にふりかかることとは
思えないでいる若者、そんな様子の者たちを描いていて、ふっとつかのまの生を、そして死についてを考えさせる、
思いがけず立ち止まって生死についてを考えさせる、
明るい牧歌的な背景なのに、そこに健康な若者たちが登場しているのに、何かふと憂いを感じさせる、
そして忘れがたい余韻を漂わせている…、
私にはそんな絵に思える。
ヨーロッパの絵画には伝統的に「死の勝利」や「メメント・モリ(死を忘れるな)」、そして「死の舞踏」という画題が、
古来より描かれて来た。
ペストなど疫病の流行により、死は、中世から人々にとってつねに身近にあった恐怖だっただろう。
そのために多くの死に対する絵も描かれて来たのだろう。
画家ニコラ・プッサンは、1600年代に活動した、すでにバロックの時代の人。
古典に憧れて、バロックよりはむしろ古典主義を貫いてゆくので、それもこの古典的な「死」の画題を取り上げた
素因になっているのかもしれない。
自画像 ルーブル美術館
プッサンの絵は、群像劇とでもいうような、大勢の登場人物が、自然の背景の中に出て来るというものが多い。
ひとりの人物をクローズアップで描くよりは、大量の人物像を風景の中に描いた。
画題は古典主義者らしく、宗教画やローマ神話などに題材をとったものが多い。
フランスの画家だが、ローマに旅して、古典絵画に目覚めたのだろう。
そして、やがて風景画に小さく人物を配したのみというような、より風景画そのものに近づいてゆく。
しかしプッサンの名は、生死の問題を、憂いを含んで顧みている者たちのアルカディアの絵によって、
今にも通じる主題を描いた画家として、私の中では存在している。