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受胎告知
Simone Martini
シモーネ・マルティーニ
1333年
フィレンツェ ウフィツィ美術館
17/1/25
聖母マリアが主イエスを身ごもったことを天使ガブリエルが告げに来る、聖書でもとても有名な場面。
ゴシック時代から教会にさまざまな画家が描き、教会に飾られて来たこの場面。
ゴシック時代の絵には絵解きがされていたりするので、よく見ると、天使ガブリエルの口から言葉が発せられ、
その字が絵の中に表記されている。
あなたはみごもった、とでも告げているのだろう。
天使ガブリエルはオリーブの枝を手にし、中央の百合の花はマリアの処女性を、
画面の上の鳩は精霊を意味する。
これらはキリスト教の宗教画を描く時の約束事で、もっとあと、おそらく19世紀くらいになっても、
宗教画であればこれらの約束事は守られていたはず。
画家シモーネ・マルティーニはゴシック時代の1300年代、シエナで活躍していた画家で、
シエナ派と呼ばれているそうだ。
金地の豪華なパネルは板にテンペラで描かれており、優美なスタイルで清潔感にも溢れている。
ゴシック時代特有の無垢さで、受胎告知が表現されているのではないだろうか。
マリアは天使の告知にやや恥ずかし気に体を逸らせ、彼女の清純さを際立たせている。
天使ガブリエルはつねに若く、美しく表現されるが、ここでも神の使いとして、清純な姿で
表されている。
金地という非現実的な背景でも、前景の人物には生身の身体性が与えられていて、
ゴシックのイコンのような二次元的な表現からは明らかに進んだ、生身の身体表現が既に
獲得されている。
その現実的な身体が、金地の背景から浮かび上がっていて、ゴシックが身体表現を身につけ始めた、
ちょうどそのような時代に描かれた名品なのだろう。
その初々しさがなんとも遠慮がちでいて、清冽で、清純な魅力に満ちているように思える。
マリアの少し恥じらったような様子が初々しいし、若い天使ガブリエルがマリアを敬って跪いているのも
初々しく、美しく広がった羽根や、今降りて来たばかりということを表現した、天使のマントのひらひらした
そよぎ方など、細部を見ても清冽でいて、リアリティもある。
色彩も美しく、名作の多い「受胎告知」の中でも、ひときわ忘れられない一作ではないかと思う。
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参考文献
週刊朝日百科 世界の美術40 昭和53年
美術手帖 西洋絵画の281人