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ラファエル前派展

滋賀県立近代美術館 4/11

2000年4月8日〜5月7日

00/4/21

ラファエル前派というのは、19世紀中頃、イギリスの若い画家たちが、伝統的で因襲に縛られたアカデミーの様式に反発して、初期ルネサンスのイタリア美術、ラファエロ以前の芸術に戻ろうという旗印をもって掲げた運動だった。

年代的に言えば、ヨーロッパで始まる印象派の運動などの少し前だと言えるだろう。
世紀末的な雰囲気があるので、どうしても19世紀後半だと思いがちだが、実は印象派より少し前なのである。

***

 

過剰なロマンチシズムや、甘い表現故に近年は忘れ去られていたが、1970年代に入り、象徴派の再評価と共に、彼らラファエル前派も再び脚光を浴び始め、今では画集の一端にもしばしば登場し、こうして一枚看板を張った展覧会が開かれるなど、評価は定まってきたように思う。

たとえ甘ったるく、不器用に描かれた美少女たちばかりの絵だとしても、ラファエル前派の密かな愛好者として、それは喜ばしい事である。

何度も言うように、印象派ばかりが過剰評価される日本で、ここまで象徴派がポピュラリティを得たことは、驚異的な事なのだ。

クラシックな筆致、不器用なまでに過去を踏襲した融通のなさ、それらはことごとく今までの日本で毛嫌いされてきたものだ。
それらを愛好することは、良い絵というものを知らない、幼稚な趣味とされ、肩身が狭かったものだ。

だが日本人が直に海外へ行く機会が増えるにつれ、印象派以外の絵画への評価は高まってきた。
当然である。

印象派は、長い西洋の美術の歴史の中での、ほんのひとかけにすぎないのだ。

さて、そんなことはどうでも良い。
今回の展覧会について、私なりの感想を記しておこう。

 

 

ラファエル前派の有名どころといえば、ダンテ・ガブリエル・ロセッティジョン・エヴァリット・ミレイバーン・ジョーンズといったところが3羽ガラスとなるだろう。
今回の展覧会では、彼らの作品もあるにはあるが、彼らのとりわけ有名な作品があるわけではない。

マンチェスター市立美術館というところの収蔵品が中心なので、テイトギャラリーのロセッティやバーン・ジョーンズなどは拝めないのである。

それでも失望したという訳ではない。
実は、むしろとても満足のいく、予想以上の展覧会だったのだ。

 

たとえばバーン・ジョーンズは何点か展示されていたが、特にその素描などを見ると、いかに彼がルネサンスに倣い、それと見まごうタッチの意匠の襞の表現を獲得していたか、驚くばかりである。
ちゃんとした作品もあったが、その柔らかい流麗な筆使いは、融通のきかない古くささといった先入観からは全く別の、大画家の趣きさえある。

また、ジョージ・フレデリック・ワッツという画家…私は、この画家の「希望」という絵のコピーを部屋に飾っているのだが、…この画家の、一目でこの画家だと分かるソフトフォーカスの独特の個性が、堂々たるものなのだ(多くの登場人物は目を閉じている、等)。
「ネス湖」(!)という風景画を描いているのだが、いかにもこの画家らしいもんやりしたタッチで、興味深い。
(なぜかファンタン・ラトゥールあたりを思い浮かべる)

或いは、女性の画家が二人ほど紹介されているが、彼女らの描く少女たちが、バーン・ジョーンズのそれそっくりの、無表情な美少女だったりするのに不思議を感じたり、バーン・ジョーンズの影響力を感じたりし、…実際、バーン・ジョーンズの影響は、女性画家だけでなく、男性画家にも及んでいて、イギリス人がいかにこのバーン・ジョーンズ風を好んだか、が分かるのである。

さらにアングル風の中近東・オリエンタリズムの意外な浸透、そして全体的に言える、ルネサンス美術への真剣な傾倒。
彼らプレ・ラファエライットたちが、いかにルネサンスを研究し、取り入れていたか、例えば北方ルネサンスを写したような作品や、構図だけ見ていると、ルネサンス絵画かと見まごうものもあることから、容易に類推することができるのである。

しかしこの展覧会の中で最も異彩を放っていたのが、シメオン・ソロモンという画家の絵だ。
日本でおそらくこれほどソロモンの絵が紹介された展示会はなかったのではないだろうか。
もちろん、殆ど無名という事もあるだろうが。
私は、今資料がないため、およそのことしか分からないのだが、同性愛者であり、そのために事件に巻き込まれたというような画家だったと思う。

ラファエル前派にしては乱暴ともいえるタッチで人物のアップを描いていて、それは時に不気味であったり、生々しかったり、ひどくセンチメンタルであったりする。
同性愛というくくりでもないのだが、どこか村山魁多の絵を思わせたのが、面白い。

 

*****

という訳で、とりとめもなく展覧会について語ったわけだけれども…。

アカデミズムに反発して旗揚げしたはずのラファエル前派運動であるのに、今となってはアカデミズムの絵とどこが違うのか、と突っ込みたくなる絵もあるし、また言及しなかったけれども、ダンテ・ガブリエル・ロセッティの絵は、どれでもあくまでロセッティであるし…。
こうして一通り見てみれば、初めは、有名な絵はあまりないだろう、とさほど期待していなかったのが、意外なほど、自分でも楽しんでいたことに気づく。

展覧会の面白さは、こういうところにあるのだろうなと思う。
その気になれば、いくらでも新たな発見はあるし、自分なりの楽しみ方も出来る。

百年も前に描かれた絵を見たって、生活にどう影響するわけでもないのだが、昔の絵が、新しい出会いとなることだってあると思う。
それが楽しみで、私など、こうして展覧会にいそいそと出かけるのだ。

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