Exhibition Preview

Trois
Nobles Dames
de France

フランス王家
3人の貴婦人の
物語展

2001年11月23日〜12月26日
美術館「えき」KYOTO

01/12/29記

先行して公開された東京の展覧会では女性が多く来場して話題になったそうだけれど、展覧会というものはえてして女性の来場が多いものだ。
特にこの貴婦人たちの展覧会だけが女性で賑わっていたわけではないだろう、などと思いながらも、やはりフランス王家ゆかりの女性たちには、女性としてかどうか、どういうわけか興味を覚えずにはいられないものがあり、気になってそそくさと出かけたのだった。

ポンパドゥール夫人、マリー・アントワネット、ナポレオンの皇后ジョセフィーヌの3人という、いずれ劣らぬ歴史に名を残した女性たちにまつわる展示である。

しかしよほど派手で、きらびやかで豪華絢爛、贅沢三昧な生活を彷彿とさせる展示なのだろう、と予想して出かけたものの、一見して、意外や、案外しょぼいなというのが、第一印象だった。

展示品が、貴婦人たちの時代のものでかなり古いということと、彼女らの実際に使用していた生活品なので、使い込まれていて傷があったりしたことが、そんな印象を与えたのかもしれない。

派手な感じがする皇后ジョセフィーヌの真紅のびろうどのマントなども展示されてはいたが、年月が経っていることで、すべての展示品がいい具合に年を重ねた感じがあり、また実際に使用されていたことが、贅沢三昧、という予想を裏切り、堅実と言えるような印象があったのかもしれない。

王冠や、宝石、それにもっと当時のドレスがこれ見よがしに展示されていれば、また印象が違っただろうが、そのようなセキュリティを強化しなければならないような展示はなかったので、それも地味になった要因なのかもしれない。

とはいえ、それが興味深いものだったことには変わりがない。

3人の、その時代を代表する女性にまつわる展示品は、彼女たちが、いやがおうにも時代の最先端で、時代を動かしたことの、その動かぬ証拠品のようなものだからだ。

 


ポンパドゥール夫人

彼女の時代は
ルイ15世のロココ調時代
代表的な画家はワトー

例えば、ルイ15世の寵姫であったポンパドゥール夫人は、身の回り品のポプリ入れや、水差しにこだわり、それが磁器の開発を促し、セーブルに王立製陶所を作るきっかけとなり、その結果セーヴル磁器が一般的になったのだった。

身の回り品に細かい細工の磁器を使ったことは贅沢かもしれないが、今日で言えばプラスチックの風呂桶に相当するもの
当時の生活品だといえる

  
                         ポプリポット

ポンパドゥール夫人は、このように経済や文化にも興味を持って口を出し、結果として流通を発展させたのだろう。

 

当時、王の結婚相手は、当然のようにヨーロッパ諸国の王族と決まっていたので、后となる女性はあらかじめ決められていたようなもの。恋愛はそこになく、区別されていた。
だから王が心を寄せ、目をかけた女性は、愛人とか寵姫などと呼ばれ、正式に寵姫という身分を与えられ、宮廷で権力を振るったのである。

寵姫はもちろん王妃よりも身分は低いが、それが才色兼備な女性だと、実際の王妃以上に才能を発揮し、政治にさえ参加し、事実上の王妃として宮廷に君臨したという。
ポンパドゥール夫人もその一人だった。

ポンパドゥール夫人は、頭がよく、才能があり、政治や文化にも関心を持ち、芸術にも造詣が深かった。
政治にも関与し、まさに事実上の王妃のような存在だったという。

***

王に目をかけられ、愛人という地位を獲得することは、女性としての栄光であり、当時の女性の憧れだっただろう。
王妃という地位は、王家の女性にしか得ることが出来ないが、愛人ならば、チャンスさえあればなることが出来るかもしれない。
それは女性としての最高のステータスだったという。

しかしポンパドゥール夫人は、愛人という、すべての女性が羨む地位を獲得することだけが野心だったというより、その愛人というステータスを利用して、フランスの文化や芸術などを発展させ、政治に参加するという、今でいうならばりばりのワーキングウーマンだったのではないだろうか。

彼女のように政治に参加したい女性は、逆にいうなら王の愛人という地位を得ることがまず、必要だったようだ。

当時女性は社会に参加出来なかったし、それが当然のことだっただろうが、ポンパドゥール夫人のように、文化や社会、政治・経済などに一家言があるような女性は、王の愛人になるというチャンスを掴めば、このように堂々と社会参加出来たのだ。

だから、ポンパドゥール夫人は、社会参加を果した、ごくはじめの女性だったと言えるだろう。
伴侶の権力を利用して、自分自身をステップアップさせていく、「エビータ型」の最初の女性だったかもしれない。

それにしても彼女は、結婚をしており、王の愛人になる前から侯爵夫人であったのだ。
当時は結婚とか、貞淑とかいうものの考えはなかったのかもしれない。


ルイ16世妃
マリー・アントワネット

彼女の時代の画家はフラゴナール

 

マリー・アントワネットはその贅沢三昧でフランスの国庫を傾け、革命を誘発したとしてつとに悪名が高い

しかし、今回の展示では、「普通の女性だった」ということに腐心していて、目も眩むような贅沢生活を髣髴させるものはあまりない。

ただ、誰もが興味を引かれるだろうものがひとつ展示されていて、それはマリー・アントワネットの髪の毛の入ったペンダントである。

少し赤い金髪という感じの色の髪がひと房、ロケットの中に入っている。
保存状態がとてもいいので、一目見たら生々しさにどきっとする。
マリー・アントワネットをあまり好きではなくても、これが彼女の本物の髪なのか…と思うと、感慨がある。

マリー・アントワネットは、自分の侍女たちに、このように自分の髪や、自分の使っていたものを与えたり、持たせることを好んだらしい。
それで今日までこのような品が残っているようだ。

そのほか、マリー・アントワネットが書いた手紙(印刷だが)も展示されている。
遺書というか、断頭台に昇る前、バスティーユの中で、親類に宛てて書いた手紙である。
普通に子供を心配する母親の心情が綴られた文章だった。

私はマリー・アントワネットを決して好きではない。
彼女の贅沢三昧も事実だろう。
国民に恨まれたのも、訳がなかったとは言えまい。

ただ、彼女の贅沢が革命を引き起こしたとするのは短絡に過ぎる、と解説には書かれていたが、それもまことのことだろう。
断頭台に昇った時はまだ30代、たまたま時代に遭遇したということも言えるかもしれない。
良くも悪しくも、歴史に名を残さざるを得なかった女性だろう。


糸巻き

マリーは糸を紡ぐことが好きで、獄中でも続けていたという

 


皇帝ナポレオンの后
ジョセフィーヌ

時代は18世紀
新古典主義 ダヴィッドなどの画家の時代

3人目の貴婦人はナポレオンの皇后ジョセフィーヌ。

ポンパドゥール夫人や、マリー・アントワネットは、悪女というか、魔性の女としてよく語られるが、ジョセフィーヌは、あまり悪女という風には言われない。
ナポレオンの皇后ということで名前は有名だが、特別に悪いことをした、という認識もされていないようだ。

自分に不可能はないと豪語した皇帝の后であるから、かなりの贅沢もしたと思われるが、歴史上ではナポレオンが派手であまりにも目立っているので、后はその影に隠れて、あまり派手な印象はないのかもしれない。

しかし展示品を見ると、やはりそれなりにかなりの生活だったに違いないと思える。


皇后の肱掛椅子

肘の所に白鳥があしらわれている優美なデザイン


皇后の靴

ご覧の通り、当時の靴は布製だったらしい。
割りと小さい。
適当に履きつぶされていて、生々しい

 

展示の量は、ジョセフィーヌに関するものが一番多い。
時代が1番近いからという事もあるのかもしれない。

ダヴィッドの、ナポレオンの戴冠式に登場するジョセフィーヌのえんじ色のマントと同型のもの(実物ではない)が展示されていたのも華やかだ。
その他実際に使われていたものが展示されていたのが興味深い。

またジョセフィーヌは、薔薇に大変興味を持っていて、マルメゾンという地に薔薇を大量に栽培する薔薇園のようなものを作らせたという。
薔薇が今日のように一般的になり、栽培されるようになったのは、ジョセフィーヌがその栽培を奨励したからなのらしい。

薔薇の様々な種類のスケッチが目を惹いた。

歴史上ではあまり目立たないジョセフィーヌであるけれど、やはりそれなりのことをしていたのだと、改めて分かる。

***

ポンパドゥール夫人にしても、皇后ジョセフィーヌにしても、高い地位にある女性が興味を示し、奨励することによって、その産業が発展する、ということがあったようだ。

或いはそれは単なる権力者の女性のわがままかもしれないが、結果として、国の重要な文化や産業を発達させたたのだから、女性のわがままも、時には役に立つということだろうか。

と言うより、男性の、世界を我が物にしたいというわがままなどよりも、よほど役立つわがままなのではないか、という気もして来たのである。

 

ジョセフィーヌは、ナポレオンより年上の皇后で、ナポレオンの遠征中には、あまり貞節ではなかったと解説に書かれていた。
それでもナポレオンは彼女を終生愛したとも。

そして子供が出来なかったので離縁されたが、ナポレオンは、彼女に土地と住まいを与えて終生保護したという。

貞節でもなく、子供も出来なかったのに彼女を愛し続けたというナポレオンをなかなかえらいと思ったが、そこまでジョセフィーヌに魅力があったのだろうか。
それともナポレオンが、一人の女性を愛しつづける性格だったのだろうか。

私は、独善的な侵略者であるナポレオンを好きにはなれないが、男性としては純情だったのかもしれない、などとふと思ったのだった。

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