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アート・オブスター・ウォーズ展
The Art of Star Wars

2003年6月24日〜8月31日
京都国立博物館

03/8/27

スターウォーズの展覧会というか展示会なら、どこでも開かれていそうな気がする。

この京都で行なわれた展覧会の特徴的な点は、「スターウォーズ」は芸術である、というコンセプトと、この展覧会が開かれた会場が京都国立博物館という、本来なら「空海と高野山」とか、宗達の風神雷神とか、国宝の仏像とかを展示する方が似合っているような会場であるということだ。

そのせいで、東山を望む借景が豊かな国立博物館の重厚な重要文化財の建物の中に「スターウォーズ」で使われた数々のプロップが居並ぶというミスマッチ感覚がたまらない、一風変わった展覧会であった、と断言出来る。

とくに博物館の格調高い入り口に、R2D2とC3POの巨大な(ペラペラの)看板が掲げてあるさまは、カメラを持って来なかったことを後悔するくらい、奇妙でポップな光景だった。

私にとっては、例えば本願寺の御堂で、ロックバンドが演奏しているというような、そんな有り様でさえあったのだ。


これが国立博物館
重要文化財指定のこの建物の中にスターウォーズがあった

 

さて「スターウォーズ」といえば、誰も知らない者はいないだろう、古今の映画の中でも最も有名な映画の一つである。

ジョージ・ルーカス(製作、監督)のもとに集まった技術者たちが、その能力を結集して出来た、スペシャル・エフェクトの見本市のような映画でもある。

この映画によってSFXが注目され、今日のハリウッド映画の流れを作ったと言ってもよい。
今日、さかんになっているCGやその他もろもろのハリウッド発の技術の興隆は、この「スターウォーズ」の遺産に他ならない。
特殊技術そのものは、いつの時代にも必要とされた。しかし、「スターウォーズ」が、それを陽の目のあたる表舞台に押し出し、それが、それまで縁の下の力持ち的で、なおかつ色眼鏡で見られていた、うさんくさい代物といった立場をいっきに覆したことは間違いがない。

 


Xウィングの模型

 

この展覧会の、数々の展示品のいっとう先に展示されているスター・デストロイヤー号*の巨大な模型を見れば、「スターウォーズ」におけるプロップの性格は、誰しも理解できるのではないか。

*ダースベイダーの乗る巨艦(敵側)

それは、「スターウォーズ」という映画を製作するために集められた技術者たちの、誰もが子供であった、という事実だ。

とにかくそれは、スクリーンに映るか映らないか、そんなことはどうでも良くて、ただこんなものを作るのが好きで好きでたまらない人間の作ったしろものだということが良く分かるのだ。
子供の頃プラモデルを作るのが好きだった人間が、ここぞとばかりよってたかって作った、ひたすら無駄に細かい、緻密な、手作り品なのだった。

展示を見ていたほかの男性の客が、彼女に説明していた所によると、それらは、日本製の実際のプラモデルから材料を取って来てくっつけてあるそうだ。


ATST

 

スター・デストロイヤーだけではない。
「スターウォーズ」に出て来るプロップのあらゆるものが、そんな子供のような、細工の好きな大人の仕業によって作り上げられているのだ。

彼らは、もちろんこれらを作っている間には、作り直し等の苦労もあっただろう。
しかし、私は断言するが、彼らは絶対にその間、楽しかったに違いない。

彼らは、これらを作ることがいかに楽しく嬉しく、そして喜びだっただろうか。
展示品のひとつひとつに、そんな、作り手の楽しさが伝わって来るのだ。

彼らは、採算とか、収入とか、時間とかそんなものは度外視してあれらのプロップを作ることそのものを楽しんでいたのだろう。

「スターウォーズ」自体が、おもちゃのような映画だったはずだ。
ガラクタばかりが登場する、おもちゃ箱をひっくり返したような童心に帰ることの出来た映画。

作り手自体が子供同然の心を持っていたから、それが可能だったのだ。

この映画を見た男どもが狂喜乱舞したわけが、今ごろになって分かって来た。

かつて自分たちが熱狂した子供の頃の、武器や乗り物や、それらの細部へのこだわりが、そのまま映画になっているのだ。自分たちの同志が作ったのだと、彼らは本能的に理解したのに違いない。
女性である私には、そこが理解を越えた部分だったのだ。

 


ジャバザハット 等身大

ちなみに、この展示では「スターウォーズ」のうち、最初の3部作のみを扱っている。

「エピソード」シリーズは、中央の部屋の巨大な「アナキンのポッドレーサー」の特別展示だけである。
だからよけい、シンプルだった頃の「スターウォーズ」の童心、というコンセプトが明確に浮かび上がっていた。

ただ「帝国の逆襲」「ジェダイの復讐」と、映画が進むにつれて洗練されてゆき、初期の「作ることが楽しくて仕方がない」という素朴さから、だんだんとプロの仕事に変わってゆくさまは、ある意味で仕方のないことかもしれない。

それでもミレニアム・ファルコン号や、Xウィングや(原型などもあり)、ATATや、スノースピーダーや、デススターなど、映画に使われた本物を次から次へと見て歩くことは、私のようなメカにうとい、プラモデルに無縁な者でも、「スターウォーズ」信者でさえない者でも、心踊るひとときであることに、なんら変わりはない。

ミレニアム・ファルコン号など、いろんな大きさの物が展示されているが(撮影に応じて様々な大きさの物が製作された)、いずれも汚しが施され、弾痕までついている。
宇宙船が真っさらではなく、汚れ、傷ついているという所が、また彼ら技術者たちのこだわりだったのだ。
架空のものでありながら、ディテールが異常にリアル、というコンセプトが明確だ。

 

「スターウォーズ」は、最初の作でアカデミー賞の衣装賞を獲得したと記憶しているが、女の私から見て、その割りにはあの衣装だけはいただけなかったと、今でも思っている。

柔道着や、ドンゴロスが基本なのだから、確かに女が見て楽しいと思うものではなかった。

しかし実物を見るのは楽しい。

オビワンも、ヨーダも基本はドンゴロスだ。
ある意味で、一つのイメージとこだわりがあるのは間違いない。
彼らがナイロン製の宇宙服などを着ているのは、製作者にとってはやはり違う、というこだわりなのだろう。


プロダクション・ペインティング

 

楽しいのはプロダクション・ペインティングや、ストーリーボード(絵コンテ)が沢山展示されていたことだ。

絵コンテはもちろん詳細な映画の画面をイメージして作られ、それ以外に、イメージイラストが数多く製作されている。
続編からは、イラストの登場人物が主演俳優にそっくりになっている。

イメージイラストといっても半端なものではなく、それだけで1枚の絵画になっているような、本格的なもの。それが何枚も製作されている。
映画のプロダクションでは、このようなシーンをイメージした絵を何枚も描くのかと、その贅沢さに驚く。
絵を1枚描くだけでもその労力は大変なものだろう。

その他ポスター(没になったポスターを含む)、マットペインティングなども展示。
各部屋にはモニターが用意されていて、その部屋に展示されているプロップにちなんだ「スターウォーズ」の場面が映し出されているというサービスぶり。

 


ダースベイダー

展示の最後を飾るのは、言うまでもなくダースベイダーだった。
もちろん映画で使われた本物のマスク、マント、コスチュームが待っている。

ダースベイダーは、ある種「スターウォーズ」の象徴であるから、やはりコスチュームだけ見ても感慨が大きい。
ダースベイダーに見送られながら、幸福感に包まれて会場を後にする時に、何とも言えない気分があった。

これがデパートの展示であったら違和感はなかっただろうけれど、国立博物館という場所でこういう催しがなされたことに、博物館という場にいる学芸員諸氏の新たな挑戦のようなものが感じられたのだった。

なお、この展示の続編が来年早々に行われる予定だ。


この展覧会の入場料が、普段より異常に高かった。1400円もしたのだ。
そこで少しむかついた私は、博物館の本館の、北西に建つ新館の方に足を伸ばし、そこの常設展示を覗いた。
本館の入場券を持っていたら、無料で新館も閲覧出来るのだ。

新館には歴史の順に、館が所蔵する京都の物品が展示されている。古墳時代から江戸時代まで、中には国宝も、重要文化財もある。

重文の仏像などがずらずらと展示されてはいるものの、やはり仏像は「寺で見るべき」ものだろう。
いくら大きな仏像であっても博物館で見ると、どうも有り難味も薄れるような気がする。
本当の仏像の楽しみ方ではない、という気がする。
(そんな気になったら、国立博物館の向いに位置する三十三間堂に行くべきかもしれない。)

新館で楽しかったのは、グッズ売り場であった。
ここはなかなか穴場で、風神雷神のミニ屏風とか、鳥獣戯画のミニ版とかが売っている。

私が人形集めなどをしていなければ、ここでたっぷり買い物をして、ミニ国宝のコレクターになっているところだ。


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