Exhibition Preview

からくり人形師
玉屋庄兵衛の世界展

06/4/20

2006年3月23日〜4月3日
京都高島屋グランドホール

からくり人形は、世界に誇る日本の伝統技術。尾張地方、名古屋で発展し、現在でも高山の屋台は有名だ。

人形好きなら誰もが興味津々であるはずの、このからくり人形の展覧会が開かれたからには行かないではいられない。しかも実演つき。これは万障繰合せてでも行かなくてはなるまい。

からくり人形で代表的なものは「茶運び人形」と「弓曳き童子」だが、もちろん両方とも展示、そして実演!さらに「からす天狗」という創作からくりも実演。

からくり人形は、やっぱり動いてなんぼのものなので、実際に動いているところを見られるのは、それだけで嬉しく、感激もひとしおだ。


からす天狗

京都では7月の祇園祭に、「蟷螂山」(とうろうやま)という山が出るが、これは、かまきりのからくりが動くので有名だ。

現在、京都で唯一のからくり山車であるが、これも特別展示されていた。実物の「蟷螂山」そのものが展示されているのであった。(モニターで動いているところも見られた。)
そして、この「蟷螂山」は、尾張名古屋のからくりと、実は緊密な関係がある。

 

今回の展覧会のメインである玉屋庄兵衛という人は、もともと京に住むからくり人形師であったという。
それが1734年に名古屋(の玉屋町)に移り住んだことから玉屋庄兵衛の歴史が始まった。

以降、今日の九代目・玉屋庄兵衛にいたるまで、からくりの仕事は代々受け継がれ、玉屋は連綿と、現在まで続いて来たのだ。

京では庄兵衛が名古屋へ行ってしまってから、からくり技術は途絶えた。

だから、祇園祭で蟷螂山を復活させることになった時、かまきりのからくりを再現する細工師が京都にはいなかった。
そこで、現在の九代目のお父さんにあたる七代目の庄兵衛氏に、復元を依頼した。

七代目は、かまきりを実際に飼って、その動きを研究したそうだ。

そんなわけで、七代目玉屋庄兵衛によって「蟷螂山」が作られ、そして現在では、祇園祭の際には、九代目の現・庄兵衛さんのチームが操演を今でも担当しているのだという。

それを知って私は、展覧会で実演をなさっていた九代目庄兵衛さんに感謝せずにはいられなかった。
7月の京都の暑いさなかに山車の中に入って操演するのは並大抵のことではないだろう。

 

展覧会では初代の玉屋庄兵衛の作品から、現・九代目の作品までが年代順に並んでおり、それらの人形の前には、それぞれモニターが置かれていて、その人形が実際の愛知県のお祭の時に動いているようすが映し出されている。

この、人形が実際に動いているさまを見ることが出来るのが、何といっても素晴らしい。
現在でも、お人形たちがお祭りで活躍しているのだ。

お祭りの時は外に出るから、お人形の髪が風に吹かれたりしている。すると、展示ではただのお人形にしか見えないものが、まるで生きているように見える。

カクカク、ギクシャクと動き、上手に動き終えた時、見ているお客様から万雷の拍手。
心なしか、人形が得意げに見える。確かに、動いている時には人形に表情がある。

動いている時にはお人形は楽しそうだし、生き生きとしている。からくり人形は、やはり動いている時に、その魅力を最大限に発揮するのだ。


愛らしい茶運び人形

からくり人形でもっとも有名なのは「茶運び人形」だろう。

これは、人形に湯のみを乗せると動き出し、客人の前まで歩き、客が湯のみを取り上げると、止まる。
そして湯のみを乗せると、再び歩き出し、回れ右して主人の元に帰る。

この一連の動きが接待役として優秀で、とても愛らしいので人気のあるからくり人形だ。

九代目が実際に操演してくれ、そのあとメカニズムを説明するため、人形の着物を脱がせて中身を見せる。

服を脱ぐ時、万歳するのが可愛くて、お客さんが喜ぶ。

このからくりはプラモデルのようにすべて組立て式というか、はめ込み式というか、簡単にばらすことが出来るそうだ。

プラスチックをもちいた復元が発売されているが、本物はもちろんすべて木製で、部分によってまったく違う木材が用いられている。
歯車は、木の伸縮によって狂わないよう、放射状におのおの切って繋いである。
大変な手間がかかっているのである。

それを、お座敷でのお遊びのために何事もなかったかのように興じる粋が、日本の文化であろう。


弓曳き童子 的に当てた時の自慢げなようすが絶品

からくり人形の最高峰と言われる「弓曳き童子」も実演があった。

これは江戸時代に発明されたものを九代目が復元したものであった。

発明したのはからくり師、田中久重であり、彼は現・東芝の創始者としても有名である。
万年時計を作ったことでも知られている。

九代目が、ひもを引っ張って、実演が始まる。

このからくりの優れている所は、この、ひもを一度だけ引っ張ることで、すべての動きが連続して行なわれる、という一点にある。

つまり、ひもを引っ張ると、弓曳き童子がセットされている矢を手にし、弓に番え、弓を曳き、矢を放つ、そして満足そうに頷く、その童子の下では別の小さい童子が一生懸命歯車を動かしている。

この動きのすべてが、ひもを1度引っ張るだけで完璧に行なわれるのである。

客席が沢山あって人が多く、遠くから見ていると人形が小さくて、人形の動作も表情もよく分からない。
けれどもテレビで動いているところを見たことがある。

指が分離していて、矢を持つ動きが完全に再現されている。驚きと言うほかない。

お座敷遊びとして、こんな贅沢はないだろう。

九代目も田中久重を絶賛していた。

実演は、ほかに「からす天狗」(義経の鞍馬での修行をテーマにしたもの)という屋台を使った大掛かりなものがあり、とてもダイナミックなもので、クライマックスでは、人形をどのように動かしてああいう動きになるのか分からない、それくらい見事なケレンを見せてくれた。

人は表にまったく出て来ないが、人形が動く度にギリギリ、ガタン、ガタンと音がする。その音がリアルで、沢山の人が中で動いている様子が良く分かる。

これも、ひとつの人形を取り出して動く仕組みを説明してくれる。

仕組みが分かってさえも、それがまるで生きているかのように動く面白さと、不思議さは変わらない。そこがからくりの素晴らしさだと思う。

 

展示では、他に愛知万博で飾られていたという、車を曳く童子の大掛かりなからくりがあった。
万博の時はかなり遠くに飾られていたので、今回のように間近では見られなかったと九代目。

そして、からくりの作業場というか、工房の部屋が再現されていた。

壁に大きなくじらの髭が飾ってあるのが目を引いた。

くじらの捕獲が条約で禁止されているため、材料に大変苦労するとのこと。くじらの髭は、ぜんまいに使うのだ。

 

九代目の説明は分かりやすく、興味深いものだった。からくりに対する知識と造詣が深く(当然のことだが)、この知性と実技が矛盾することなく一人の中に体現されていることが見事だった。

実演の時にアナウンサーがいて、九代目に、からくりを作る時どの部分が一番むつかしいかと質問した。

すると、九代目は、「顔」だと即答した。

お人形の顔を、いかに生き生きとしたものに作るかがむつかしい。お人形は顔がすべてだから、顔の良し悪しで決まるから、顔が一番大事で、一番むつかしいと。

それは、すべてのお人形好きの者の思うことだ。

あの、さまざまな仕掛けのしてあるからくりなのに、もっとも神経を使う場所は顔、その言葉に、この人も、私たちとさして変わらない同じ人形者なのかな、とふと思った。

ミニチュアの世界展2001

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