南座発祥380年
歌舞伎衣裳展
美術館「えき」KYOTO
1999年12月1日〜12月26日
写真入りました(05/11)
99/12/20
美術館「えき」で、「歌舞伎衣裳展」をやっていた。
これは、南座の顔見世と連動して開催されているもの。
おもだった歌舞伎の演目の衣裳がずらりと展示されていて、それなりに、興味深い発見がいくつかあった。歌舞伎の衣裳は、とにかく派手。
舞台ということもあるし、リアリズムよりもとにかく目立たなくてはならない。その思想にのっとって製作されている衣裳であるから、きんきらきんである。金糸、銀糸がいやというほど縫い込まれ、極彩色の、目も眩まんばかりの世界である。
そうした中で、世話物というか、上方の「曽根崎心中」の衣裳は、さすがに上方のあっさり味というか、大阪のうどんのうす味というか、非常にシンプルな、色づかいも控え目な、しかも上品な佇まいで、かえって目立っていた。
やむを得ず心中に赴く恋人達の、やるせない心情を静かに語っているような気がした。
「白波五人男」の衣裳もあった。
彼らは、今で言う暴走族のようなものだから、共通のユニフォームがある。現代の不良が皮ジャンで決めているように(古いか)、彼らは全員同じ紫の地の着物に、それぞれのキャラクターに則した模様が描き込まれている。
弁天小僧なら菊、日本駄右衛門なら龍(?)という具合だが、その模様は、よく考えてみれば、彼らの背中の彫り物そのままだ。つまり、背中の彫り物を、着物の柄で表現しているということだろう。
私はこの「白波五人男」を実際の舞台で見たことがないけれども、舞台姿をまさに彷彿とさせる展示だ。で、何といってもハイライトは「助六」の揚巻。
花魁の揚巻の衣裳は、歌舞伎の演目の中でももっとも凄いもののうちのひとつだ。
これは、一月が物語の設定になっているので、衣裳にも、その一月のお正月飾りが使われているのだ。背中に、布で出来た巨大な伊勢えび、鏡餅のお飾りの干し柿などをしょっている。
揚巻は、背中に伊勢えびをしょっているのだ!
私は衝撃のあまり、しばらく身じろぎもせず、見入ってしまった。いくら派手とはいえ、揚巻はこんなものをしょっていたのか。
それに気づかないほど、「助六」の、また歌舞伎の舞台はすさまじいのだ。歌舞伎は総合芸術だ。
役者、バックミュージシャン、演出家、道具方、様々な人々の尽力で舞台が出来上がっている。
衣裳もその重要な1つの要素だ。
でも、それさえ、要素の1つとして見過ごしてしまうほど、一回の舞台にものすごい密度の要素が盛り込まれているのだ。なかなか、勉強になった。
また、衣裳は、その着る者のキャラクターを代弁している。
そのキャラクターが、正義の味方なのか、薄幸の美女なのか、わがままなお姫さまなのか、そうしたキャラクターの性格を表現した、デザインをされている。舞台を遠目で見ているとなかなかそこまでは分からないが、こうして近くで見ると、それが良く納得できるのだ。
「勧進帳」の義経はそこはかとなく高貴な人間だとにおわすため、紫を使う、舞踊「鷺娘」の衣裳は、季節ごとの鷺の柄が織り込まれている、鳴神上人が怒った時はぶっかえり(?だとかいったと思う)で炎の模様の衣裳になる、等。
キャラクターの性格を、衣裳が分かりやすく表現しているのだ。ところで、玉三郎さんは、揚巻の衣裳は別注で、考証をしなおして原型に忠実に作ったと、ある所で仰っていた。
鏡獅子の髪の毛も、特別な素材で作った由。とすると、役者ひとりひとりが、それぞれに自分の持ち役の衣裳を持っているということだろうか。
役者によって背の高さとか、サイズの違いとかがあるだろうから、たぶん皆さん、それぞれに持っておられるのだろう。この衣裳展では、誰がこれを着た、というような表示はされていなかったが。
さて、これでますます歌舞伎を見るのが楽しみになったことであるよ。