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京都国立博物館
常設展示 特集陳列 伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)

新館常設展示・特別陳列

2005年1月2日〜3月27日 仏像と写真
2005年2月16日〜3月27日 伊藤若冲
2005年3月2日〜4月3日 宸翰 ―文字に込めた想い―

京都国立博物館

05/4/28

ある日、国立博物館のある七条通をバスに乗って通っていたら、博物館の宣伝看板のひとつに「伊藤若冲」と書いてあるのが見えた。
バスが止まらずに走り去るのでよく見えなかったのだが、確かに若冲と書いてあったような気がした。

私は焦った。

見逃すことは出来ない。
なぜなら以前、若冲の大特集があった時に見そびれ、それ以来、私は若冲となると異様に神経質になっているからだ。

細身美術館にも見に行った。承天閣美術館も見た。でも何かが決定的に足りない。
宮内庁三の丸美術館も行きたい。なぜ若冲の絵が宮内庁にあるのだろう。腹が立つ。

というようなわけで、悶々としていると、京都新聞に、今博物館で若冲の特集展示がまさに行なわれている最中である旨が書いてあった。京都新聞を取っていて良かった。
博物館の前の看板以外に情報がないので、あれは幻かと思い始めていたところだったからだ。

早速、いそいそと博物館に行った。例によって歩いて行った。歩いて行ける距離なのだ。


ワシの好きな本館のファサード
今回、こちらはお休みで玄関は閉じられている

この時期、常設展示館(新館)には若冲とともに3つ(または4つか5つ)の特集陳列があった。

驚いたことに、若冲特集は、博物館の特別展示ではなかった。
常設展示館の中の常設展示のコーナーに、特集陳列としてあるのだった。

博物館は最近、常設展示の方法をちょっと変えたようだ。ミニ特集で、特集陳列として、テーマを儲けて常設展示を見せているらしいのだ。

 


モノクロのチラシ
色刷りは、今回なかった(T_T)
スキャナーするのが面倒で、デジカメで撮影したものです。すんません

 

思えば2000年、日本に若冲という画家がいた、というようなキャッチで、若冲の大特集をしたのがこの京都国立博物館だったらしい。
それ以来、いっきに若冲がブレイク。この博物館が、若冲をメジャーにしたという。

今回、久しぶりに博物館の常設展示館の特集陳列で、若冲がずらりと並ぶ。

 

伊藤若冲は、京都の錦の生まれである。

京都の街中も街中、ど真ん中である。

錦といえば、錦市場。食品の店がずらりと並ぶあの錦だ。若冲はその錦の青物問屋の長男として生まれたという。文字通り、錦の八百屋の旦那さんだったのだ。

途端に親近感が涌く。なーんだ、錦のおやっさんだったのか。

しかも高倉錦小路というから、もう、若冲が大根を売っていた場所まで特定出来てしまうのだ。歩いて行ける距離にあるのだ。何だか、今でもそこで大根を売っていそうだ。

40歳までいやいや家業をし、40歳になったらそそくさと弟に家督を譲り、絵に専念したというから、やはり伊能忠敬と同様、江戸時代の商人の「40歳代隠居説」を裏付けることが出来ると思う。忠敬は49歳だった。若冲はなお早い。よっぽど八百屋がいやか、絵を一刻も早く描きたかったのだろう。

 

展示されているのはまず、例によって鶏の墨絵からだ。

若冲は写生のため、鶏を家の庭で飼っていたという。やたらに鶏の絵が多いのはそのためだろう。

若冲の鶏の絵は、絵と文字の中間のようである。

顔や、羽や、足などはきちんと描き、しっぽはいきなり一筆でしゃっ、とひと刷けするだけ。
その尻尾の黒い墨が、何とも言えず絵のいいアクセントになっていて、心憎いばかりだ。
その刷毛の線は、絵というよりも書のようなのだ。

墨絵といえども、墨の濃い部分と薄い部分、そして塗らずに白く残す部分とがあり、その兼ね合い、バランスがとてもいい。

 

嬉しいことに、カラフルな、若冲らしい彩色絵も展示されていた。

「鶏頭蟷螂図」。真っ赤な鶏頭(けいとう)の上にカマキリが乗っている。
鶏頭の、赤と黄色で塗られたその目に痛いくらいの鮮やかさ。

だが、絵の全体がギラギラなのではない。その、花の部分だけが赤い。
そのバランスというか、アクセントが絶妙で、やっぱり日本人の、この美のセンスは本当に見事だなと思う。
西洋絵画を見て、こんなにバランスに美を感じることはないからだ。

 

博物館が所蔵しているのは「石灯籠図屏風」と「果蔬涅槃図」。ともにものすごくユニークなものだ。ユニークすぎてえっ、と驚いてしまう作品だ。

「石灯籠図屏風」は、まるで印象派スーラの点描画のように、石の灯篭が点描で描いてある。
が、この図は図全体に点描が用いられているのではなく、灯篭の質感を表すために、灯篭だけを点描しているのだ。
確かに、灯篭のコツコツ感が出ていて、不思議なムードの絵だ。

「果蔬涅槃図」。これも結構有名だが、釈迦の涅槃図を野菜で描いてしまったもの。
つまり、大根を釈迦に見たて、その周りをいろんな野菜が取り囲んでいて、大根の入滅を嘆いている、というもの。
ユーモラスではあるけれど、相変わらず、墨の濃淡が的確で、モノトーンなのにカラフルな色彩を感じさせる絵だ。
また、若冲が青物問屋のおやじだったことも関係しているだろう。

 

大きな図では、「百犬図」がひときわ目だった。

ポスターにも使われている、さまざまな姿態の子犬を描いた、見ていて飽きの来ない愛らしい図だが、これだけの子犬をアトランダムに画面いっぱいに描く構成は簡単ではないだろう。そして、破綻なく納めている手際にも感心する。
(タイトルは百の犬だけれども、実際は59匹だそうだ)

子犬、という所がいいと思う。
小さなしっぽがくるんと巻いているさまや、一列に並んで昼寝しているさまなど、犬好きはこの絵の前から離れられなくなるに違いない。

空間いっぱいに、隙間なく埋め尽くす描写と、空白を取り入れて、空間を生かす描写。
それはいっけん両極にあるような気はするが、実は空間をプロデュースし、デザインするという点で共通する。
デザイナー若冲の、同じまなざしではないだろうか。

 

そしてさらに、不思議な版画が展示されていたのが、見ものだった。

「拓版画」と、説明されていた。

拓本の技法を用いた版画、らしい。掘った部分が白く残る、白黒が反転したような図…ということだが、白と黒のコントラストがとても美しく、モダンに見える。ここでもデザインセンスが生きている。

たしかかえるの図だとか、かぼちゃの図があったような気がした(随分前になるので忘れてしまった(>_<))

確実に覚えているのは、「乗興舟」という、淀川下りを描いた、長尺の版画巻。
若冲のパトロン(?)である大典とともに淀川下りを楽しんだ時の情景をパノラマにしたもので、拓版の堀残した部分を黒に塗り、友禅染めの技法を用いてぼかしを入れ、風情ある幻想的な風景を描き出している。

ここでも若冲は技法に拘らず、版画の上に色を塗ったりしている。
技法よりも、絵全体がかもし出すムードが大切で、そのためにさまざまな手法を試した、と言えるのではないだろうか。

 

2000年の特集には行けなかったものの、この特集展示で、私はようやく満足がいった。

若冲の色彩豊かな、興趣に富んだ図の数々は、どれもこれも眼福だ。

若冲と琳派展 相国寺

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