Book Maniacs

まんが

失踪日記

吾妻ひでお

2005年

イースト・プレス

05/6/12

おそらくこの本は、漫画作品としてだけでなく、書物として発行されたここ数年のものの中で、最も重要な作品の一つであることは論を待たないと思うが、それにしても私にとって、この本はあまりにもすごい。すごいものを見てしまったという気がする。

帯で、菊池成孔という人が(ミュージシャンと書いてあるが私の知らない人だ)「総ての現代人にとっての福音の書」と書いていることに異存はない。
「足の丸い四頭身で描かれた現代の新約聖書」とも言っているが、むしろ私にはダンテの「神曲」を思わせる。
目も眩むような悪夢の煉獄巡り、地獄巡りを軽々と語ってのける、もうひとつのディヴィーナ・コメディアであるとしか言いようがない。そうだ、これはまさしく神聖な喜劇である(同じことを言っているぞ…)。

巻末についている、とり・みきとの対談では、「自分を第三者の視点で見るのはお笑いの基本ですからね」と、吾妻自身が語っているが、この作品の偉大なところは、作者がその言葉通り、自己を笑いの対象として冷静に分析して、客観的に見ている点だ。
そして、笑いをこそ目的としているところだ。

本来なら、とても笑える話ではない。本人も、本当に悲惨なところは避けているという。それでもこの笑いと、奇妙な明るさが、悲惨な現実の救いとなって、それが福音だと我々に思わせる所以なのだろう。

何だか自分の言葉で、的確に表現出来ないことがもどかしい。

 

作者がここまで転落した原因は、現実と、作家としての理想との相克、があっただろう。ある意味で自分を通し続けようと思ったら、煉獄へ落ちるしかない。彼は非常に正直に生きている。
人から見れば、それは転落でしかないかもしれないが、彼にとっては、それしか選択肢がなかったのだ。
常識という垣根を軽々と越えて、ここまで自己を通すことが出来る作者に、ある種の妬みさえ私は感じる。

もうひとつ思ったことは、現代でホームレスを生み出す状況に、期限切れの食品はすぐに捨ててしまう、コンビニやスーパーの体制がある。
コンビニのごみ箱を漁れば、まだじゅうぶんに食べられる食品を簡単に手に入れられる。
私も出来ればそうしたいくらいだ。
というか、これでいつホームレスになっても安心だ。

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