隠れた日本美術を紹介した名著
奇想の系譜 2004年(文庫版) 辻惟雄 筑摩書房 08/8/20 |
この本は、1960代後半、学生運動の盛んな時期に単行本で発売され、大変なセンセーションを呼んだという。
この文庫本のあとがきや解説の文章に、その当時のこの本の出版に対する驚きが伝わって来る。
*単行本初版1970年、新版1988年
そして直ちに名著との評価を得たらしいが、その時よりもさらに、今は、この著の先見の明とか、早すぎた名著としての評価が上がっているように思う。
何といっても当時無名であり、そして現在になってようやくその名が一般的になった伊藤若冲を最初に評価した著書として、その名を燦然と輝かせているのがこの本だ。
若冲は、江戸時代には有名だった。
しかし、昭和の戦後にはまったく忘れられた存在になっていた。その存在を本書が知らしめたのだが、一般的に若冲が世に知れ渡るのは、この著が発売されてからさらに30年後、京都国立博物館が若冲の特集展示を組んで以来だ。
それまで、この本も忘れられた形になっていたのではないか。
若冲があれよあれよという間に有名になるにしたがって、この著書もクローズアップされ、筆者・辻惟雄ももてはやされるに至った。
2004年に文庫として発売された本書は、まさに日本美術好きにとっては必携の、基本図書と言って良いだろう。
タイトルに「奇想」と銘うたれ、日本の美術史の中では異端とか、傍系と言われる画家ばかりを集めているようにいっけん思われるが、実は、この本に紹介されている画家たちは異端でも傍系でもなく、日本美術の堂々たる主流ではないか、と言うのが感想だ。
紹介されている画家は岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曾我蕭白、長沢芦雪、歌川国芳。
個人的には、芦雪を江戸の鳥羽僧正とあだ名しているのがうれしい。