幻冬舎新書
金印偽造事件 2007年 三浦佑之 幻冬舎 07/5 |
有名な「漢委奴國王」というあの金印が贋作であり、18世紀江戸時代に作られた、と主張している本である。
これが発売された時、私はあの金印に偽物だという噂があったことさえ知らなかったので大変に驚き、とても興味を持ったが、ぐずぐずしていたらあっという間に書店から姿を消したので、まさか内容が内容なだけに、闇から闇へ抹殺されたのか?とか、再版を禁止されたのか?など、いろいろ物騒な思いが頭をかすめた。
ただ単に売り切れたあと増刷されなかっただけらしいが。
何しろ現在も国宝として博物館に麗々しく飾られているあの金印を偽造だと断定しているのだから、これはタブーを正面から扱ったものすごい問題の書だと思ったのだが、世間一般では話題にすらならず、どうやら黙殺されてしまったようだ。
でも私は偽造だの、贋作だのが大好きな人間で、贋作と聞いただけでお尻がムズムズし、じっとしていられないので、こういう書は大歓迎だ。
著者は、「今や金印は…(中略)…日本国の成立を象徴する国宝として燦然と輝いている。それをにせ物だというのだから、もし間違っていたら、ただではすまないだろう」と、それなりの覚悟をしていることを伺わせる記述がある。
ただ、こういう、著者の感想というか感慨が随所に出て来るのが具合が悪い。
もっとただ知り得た事実を淡々と、緻密に列挙し、考証してくれた方がありがたかった。
この書が専門家からおおむね黙殺されたのは、詰めが甘く、何しろ200年も前のことなので証拠も絶対的なものを提出出来なかったことにあるだろう。
ただ非常に真面目に考証し、検討しているのであって、面白半分に、世間を騒がせるためだけにとんでもないことを言い出したのではない、と言うことだけは確かだ。
この本を読んで、少なくとも、九州のどこかの農民が田んぼを耕していたらクワに当たって出て来たという、あのエピソードだけは真っ赤な嘘だということが分かった。
文化財行政は、疑問符がつくことが多い。
指定されている国宝が本当にそれに相応しいものなのか、偽物はひとつもないのか。
国宝に指定する時に、権力者などの圧力はまったくないのか。
これまで、一度決められてしまえば再検討などはされて来なかったのではないだろうか。
最も重要なことは、本ものか偽物かをただ突き詰めるよりも、文化財を改めてもう一度洗い直し、確めてみることが必要だということを、多くの人に気付いてもらうことではないだろうか。
その意味で、この書はとても意義があると思うのだ。