集英社新書
憲法九条を世界遺産に 2006年 太田光 中沢新一 集英社 06/11 |
私は太田光というか、爆笑問題のテレビ番組をどれひとつ見たことがないし、興味もさしてないのだけれども、昨今憲法改正論議が盛んであり、なおかつ最近では改正論者の論理の方が幅をきかせている。
確かに彼らの論理の方が整合性があるし、説得力がある。そして、新しく首相になった人も改正に意欲的であることから、いよいよ憲法が改正されそうである。
護憲派としては、非常に分が悪い。
護憲派の論理は感情に訴えるばかりで論理的な説得性がない、という風に、つねづね思っていた。
論理性がないから、分が悪いのだ。
そんな中で、この本は護憲派の擁護…というか、護憲を旗印に掲げて登場した。
この本を読めば、なるほど憲法を護らなくてはならない、という気になるかもしれない。のかな、と思い、買ってみた。
だから、私は著者である太田光にも興味がないし、中沢新一という人については、今まで名前すら知らなかった。
だからかもしれないが、この本は太田光という芸人と、中沢という作家(?)か何だか良く分からない人(思想家?)のキャラクター、この二人が憲法について対談しているという、奇抜な面白さだけがウリの本ではないのかと思った。
対談の内容は、だからあってないようなもの。何を語っているのかというと、結局本のタイトルにあるように、「憲法九条を世界遺産にしよう」ということだけなのだ。
だから、この対談の内容は、別に本を買わなくても、タイトルを読むだけで分かる。タイトルだけで、何を語っているかが全部分かる。
逆に言えば、それ以上のことは何も語っていない。
「憲法九条を世界遺産にしよう」と(対談全体を通して)言っているだけなのだ。
太田光の言っていることは、芯が通っていて、整合性がある。最後まで一貫していると思う。
憲法九条というものは、世界遺産と同じである。
世界的に見て、とても珍しいものであり(世界にひとつしかない)、人の手で保護し、護らないと滅びてしまう。だから、世界遺産として保護しなければならない、というもの。
この考えについて、「思想家」である中沢という人が共鳴し、その論理を補強しようとしている、のかと思うが、中沢は別に雑談というか、その周辺をうろうろして関係のないことを持ち出して来たり、話が飛んだり、話が少しもまとまらず、何を言いたいのか皆目分からない。
その結果、太田光の主張を補強しているどころか、護憲の論理さえきちんと語ってはいない。ように、私には思える。
結論を言えば、この対談を読んで、そうだ、そのとおりだ、憲法を護らないといけないなあ、とは到底思うにいたらないのだ。
結局話題性だけでこの本を売っているとしか思えない。
こんな本を出されては護憲派はますます肩身が狭くなるだろう。
これから買おうかとか、興味を持ったかもしれない人に対しては、買わなくても、タイトルだけ読めばじゅうぶんだと言いたい。
ただ、太田、中沢という、そこそこ有名な人が護憲派であるということをアピールしたという点では、有意義な本かもしれない。