どちらかというと講談社文庫
動かぬ証拠 蘇部健一 2004年 講談社 06/4/12 |
本屋には様々な推理小説が並んでいて、流行作家や人気作家のものがベストセラーになっていて、目立つところに平積みされている。
しかし、そんなものには何の興味も引かれないくせに、なぜこのようなものを自動的に手に取り、いつの間にか足はレジに向っているのだろう。誰か教えてくれ。蘇部健一といえばあの衝撃的な「6枚のとんかつ」の作者であり、それがあまりにも強烈だったため、彼に他にも著書があることをまったく知らなかった。
というか、あの作品があまりにもアレだったために、引退したのだと思っていた。いや、推理小説界から抹殺されたのではないかとすら思っていた。
その彼がまさか、このように次々に作品を書いていたとは。このような疑いを持つのも、「6枚のとんかつ」を読んで、果してこの作者にまともな推理小説が書けるのか、はなはだ心もとなかったからである。
ところが、この「動かぬ証拠」を読むと、驚いたことにちゃんとまともに書いている。
相変わらず短編ばかりで、読みやすい。
謎が非常に論理的に形成されており、これならば普通の推理小説と呼んでもおかしくない。
蘇部健一は、まともな推理小説も書けるのだ!これは大発見であった。
しかし、この作品集は普通の推理小説とは決定的に違う部分がある。
それぞれの短編の最後にイラストが書かれており、そのイラストによって犯人の嘘が暴かれ、動かぬ証拠を突きつけられる、という、おしゃれな趣向を凝らしているのだ。作者は、この趣向の発見により、日本のミステリー界がひっくりかえると思ったらしい。だが全然ひっくり返らず、無視されただけだった(あと書きより)。
だが、無視するにはあまりにも惜しい、ちょっとした佳作ぞろいである。
イラストが分かりにくく、説明が不十分という点もあり、証拠がくどくて、もってまわりすぎのところもあるが、考えオチとしてなかなか楽しいし、真面目に推理を展開しているし、良く考えられていると思う。
アイデアがとてもいい。ただ、肝心のイラストがちょっと安っぽすぎて、萎えてしまう。あまりにも漫画的で、せっかくの推理を殺していると思う。
もう少しちゃんとしたイラストレーターなり、リアル系の絵を描く人を雇えなかったのだろうか。
それだけが不満だ。