新潮文庫
仏像は語る 西村公朝 1996-2004年 新朝社 06/6/15 |
宮大工界に西岡常一がいるとせば、仏像界には西村公朝あり。仏師、修復師として有名な西村公朝氏の文庫本が出ていたと初めて知って、急いで買い求めたのが、魅力的な表紙のこの本。
しかも438円(税抜き)とは安い。新潮文庫は相対的に安いのかもしれない。新発見した。お寺巡りに見仏を始めれば、西岡棟梁と西村師の名前はどうしても外せない。どちらも「西」が入っていてややこしい西つながり。関係ないと思うが。
西村公朝師は、大阪生まれ、「美術院国宝修理所」へ入り仏像修復を学び、修復師として国宝修理に携わりながら、その後得度して京都の愛宕念仏寺の住職にもなられた。
2003年惜しくも逝去されたが、その名前は、仏像を見るようになると、私のような初心者でもぶつかる。京都三十三間堂の千手観音の修復から始まり、千体以上の仏像の修理を手がけたという。
あの、三十三間堂の1001体の千手のうち、半分以上を師が修復されたそうだ。
戦前に修復が始まった時には、千手の手や指や持物が、仏像の立っている床にばらばらに落ちていたそうだ。
それらを集め、整理・分類し記録し、調査が終わった処で謎の放火事件が起きて収蔵していた脇手のほとんどが焼失。そこから、西村さんたちは戦争を挟んで20年ものあいだ、修復を続けたという。
西村氏は途中、召集されて兵隊に行ったが、残った先輩の技術者はあの戦争の終戦も知らずに修復を続けていたという。
戦後は、半分修復が済んだ処であとの半分の500体は海外に売ってしまえという意見もあったそうだ。そんな、驚くべき三十三間堂の歴史をこの本は語っている。
兵役の最中に不思議体験をした西村氏はそれにより仏教に帰依し、住職にもなる。
少しオカルト的な部分もあるのだが、それよりも、三十三間堂の1001体仏に見るような、ものすごく貴重なドキュメントをこの本によって知ることが出来る。
修復師でしか知り得ない、修復師ならではの仏像裏話も、珍しく興味深い。
各エッセイのページ頭のイラストは西村師本人が描いた絵だ。
それに、手のアップのイラストがあるのだが、仏さまの手のつもりなのだろう。やわらかで、包みこむような、優しい手のイラストが、西村師の人柄を表しているようだ。
読んでいると、汚れきった心がまるで澄みわたるように感じる。日頃、なんて汚れた心で生活していたのだろう、と、恥ずかしくなり反省しきり。
なまんだぶなまんだぶ。