Book Maniacs

角川文庫

晩秋の陽の炎ゆ
(おそあきのひのもゆ)

西村寿行

角川書店

昭和62年

05/8/20

西村寿行という作家は一種の流行作家のようなものなのだろうか。現在はあまり書店で作品を見かけなくなった。角川文庫で出されていたこの作品も、いまでは入手不可能だろう。

西村寿行氏の作品を読んだことはなかったのだが、まあ、巷で「男色場面がある」という噂を聞いて、読んでみたという程度なのだ。

寿行氏の作品には、確かに男色を扱ったものが少なからずある。それがテーマというわけではなく、作品の中の一部分に登場する、という場合が殆どだが。

そういう、「男色場面がある」作品の中でも、この「晩秋」は男色の部分の分量が結構多く、グレードも高い、ような気がして紹介する次第。
西村寿行作品は、あの江森備の「私説三国志」に影響を与えたと言われる。そう言えば似たような場面が出て来るので、チェックするのも面白いかもしれない。

 

内容は、エロティック・バイオレンス・アクション…で、男色だけではない。強姦やら、輪姦やら、レズなどが入り乱れる。

ストーリーはあまりにも突飛というか、現実ばなれしすぎていて説明がしづらい。主人公(ヒロイン)の名前がものすごく時代がかっていて、いつの時代かも分からないくらいだ(でも現代)。

山奥に住むある一族の仲間8人が、ある理由により里を追われ全国を放浪する。それを追うヒロイン、そこに暴力団が絡んで来て、殺戮と性の饗宴が始まる…

けれども、こんなストーリーを追うより、寿行氏の小説は、彼の語り口と、バイオレンスシーン、エロティックシーンを堪能すればよいのだと思う。

乾いた独特の語り口が、どぎついセックスシーンも、不思議と人間の業の哀しさのようなものを紡ぎ出す。
だが、突き放した感じでいながらこよなく扇情的でもあり、それを堪能する人もいるだろう(私だ)。

男性の作家の描く男色シーンは、昨今の、女性が描くライトノベルなどとは比べ物にならない。というか、まあ比較にはならない。

女性が描くのは、しょせんぬるい心理である。男同士、として設定されているが、ともすればその心理はどちらも女同士と言って差し支えのないものだ。

西村寿行は、男性にも、女性にも差別はない。性の盲者という点で、どんな性愛のタイプにもタブーがない。どんなセックスも並行に描く能力がある。

だから、男色の場面も、時に詩情が漂い、哀しみを伴う。時に醜悪であり、時に美しくもある。
男女の場面も同様だ。その差異のなさが、男性作家にあって珍しい。そして素晴らしい。

一族8人の首魁が、男色者でありながら自刃の時までかっこいいのもみごとだ。凡百の「ボーイズラブ」を読むよりはるかにスリリングだと思う。

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