Book Maniacs

ちくま文庫

いやげ物

2005年

みうらじゅん

筑摩書房

900円

05/7/31

私は「見仏記」のファンだがみうらじゅんのファンではないので、彼の本をそれ以外には買っていなかったのだが、これはつい、買ってしまった。

定価が文庫にしてはとても高いので、立ち読みだけにしておくつもりだったのに、最初に特集されている「甘えた坊主」に、あまりにも衝撃を受けたからだ。

「いやげ物」とは何か。

日本全国の観光地で売っている、お土産になりそうで、なりそうにない、土産だと言って相手に上げようものなら、嫌がられるに決まっている、そんなヘンテコな観光みやげ(?)を集めたものである。

その衝撃は、想像以上である。

しかも、それをかなり体系的に纏め、列挙してあるこの本の衝撃もかなりのものだ。

つまり、みうらじゅんは、全国各地の観光地に行っては、このようないやげ物を実際、買い集めているということだからだ。

 

「甘えた坊主」の正体は、雪舟だと言われている。

小坊主さんが木魚にもたれて眠っている、のが基本のポーズだ。その背中にネズミがいるので雪舟だろうと推測されている。

だが、この小坊主さんがなぜか長いまつげをしていて、アイシャドウをくっきり塗り、ほほ紅を入れ、口紅まで差している。
中には襟元をはだけて、やけに色っぽいのもある。

みうらじゅんは、「セクシーを入れてるつもり」だと言っているが、なぜ小坊主さんをそんなにセクシーにする必要があるのだろうか。

しかも、それが全国の観光地で、いろいろなバリエーションで売られているのだ。

これが驚かずにはいられようか。

 

「ヘンジク」というのがある。

これはちょうど掛け軸のような体裁のもので、黒地に、極彩色の刺繍(?)がしてある。

例えば、東京タワーに浅草とか、大仏に五重塔などがけばけばしくデザインされている。
ちょうどペナントを縦長にして長方形にしたような感じだ。

ペナントを買う人も今時あまりいないだろうけれど、ヘンジクも、誰も買うまい、と思う。
思うけど、どうなんだろう。
売っているという事は、買うという人もいるのだろうか…。

「金プラ」

金メッキの、小さい城などを象ったもので、城と鹿が同スケールだったり、金ピカの東京タワーに温度計が付いていたりするもののことだ。

「二穴オヤジ」もかなりすごい。

日本全国どこにでもあり、同じパターン(5種あるとか)のサンタクロースか、小人のようなオヤジが、スコップを持って穴を掘っている。
穴は二つあり、それが、えんぴつを差す穴で、要するにペンスタンドなのだが、これを観光地で、観光地の名前をつけて売っている。
その観光地とは何の関連もないのに、全国に分布している。

 

いつの間にこんなにいやげ物の世界が広がっていたのだろう。
めまいがするほどだ。

慰安旅行で温泉へ行く。
すると出会った二穴オヤジ。
待てよ、去年の慰安旅行で行ったあそこでも確か見たぞ、こんな二穴オヤジ。

旅行の思い出を手繰り、人を追憶のワンダーランドへと導くいやげ物。

そんないやげ物の世界を白日のもとに曝したのが、この本だ。

 

観光地のお土産といえば、昔私が子供のころ、父がよく組合(扇子組合)から、各地に旅行に行っていた。
父は旅行に行く度、子供の私と姉にお土産を買って来てくれたが、それが全国のこけしだった。

こけしと言っても大きいものではなく、木製の小さな人形だ。

それが、観光地のちょっとした名物や景観の模型に添えられている。
日本ライン下りのこけしは、木曽川(?)に船が浮かんでいて、その中に何人かの小さなこけし人形があしらわれている、というようなもの。

そのこけしのおみやげがあまりにも沢山になったので、ガラスケースを買い、その中にきちんと並べてあった。

手のこんだものもあって、それらは決していやげ物ではなかった。

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