新潮文庫
東京名物 早川光 新潮社 2003年 04/10/20 |
私はこのようなタイプの本も、無条件に好きと言える。
たわし、ペコちゃんの人形焼、歌舞伎「毛抜」に出て来るそのままのような毛抜、ほうき、オーダーYシャツ…と、アイテムのチョイスはとてもセンスがいい。目次を見ているだけでワクワクして来る。とくに私のお気に入りは、寄生虫Tシャツである。
東京タワーの建築模型、などというのも渋い(プラモデルと言わないところがいい)。東京名物というのは、例えば京都で言えばふたば屋の豆大福とか、よーじやの油取り紙とか、林万昌堂の甘栗とか、そういうものだろう。西利の漬物、聖護院八つ橋、一澤帆布のかばんとか。
アイテムだけ見れば、確かにそんな気分で楽しそうだ。そう思って買った。
…ところが、アイテムの写真とともに添えられている能書きを読んでみると、だんだん気分がどんよりして来た。なんとなく、むかついて来る。ちょっと腹が立って来る。
どやねん。
これこれは、午前中に行かなければ売り切れる、これを買ったら主人がこうしなければいけないと怒る、
これこれは東京のここが日本ではじめて作った、云々。ちょっと頭に来たのは、卵焼き(だし巻き)を折りに入れて買うという行為。
だし巻きなぞ、家で作るものだろう。わざわざ買って来るものなのだろうか。
出来たてのほかほかより、一日経って冷えたのがおいしいのだ。どこの店のよりも。このような、高級だし巻きをわざわざ高いお金を出して買って来る、という行為はどんなものか。
また、缶入りのおでんというのもあった。
おでん。
そんなものを缶に入れるな、と思わず思う。…私の感覚がおかしいのか?
こんな他愛のない本にムキになって突っ込みを入れるのが間違っているのだろうか。でも、コロッケは東京が最初、とか言われても…。
たかがコロッケにそんな自慢するなよ…と、いじましく思えて来る。なんか、間違えてないか?作者。ものに対する態度を。
行列を作って買うことが価値のあることなのか?そこでしか買えない、ということが価値なのか?
なんか、こだわりということをはき違えてないか。これは、たわしとか、ビールとか、他愛のないものにもっともらしい能書きをつけて、価値を高めようとしているのではないのか?
他愛のないものは、他愛のないものとして楽しむべきではないか。それが何かとてつもなくありがたくて、行列を並ばなくてはならないから大事、なのではない。
こんなくだらないものに行列をしてまで買う自分がおかしく情けない、ということが大事なのだ。
私なら、もしよーじやのあぶらとり紙を紹介するなら、でもあぶらとり紙なんてどこでも売ってるし、左馬のもよく落ちるし、同じようなものじゃないの?くらいな説明文にすると思う。
なんか、違うのだ。私の感覚と。
楽しいだろう、と予測して買った本なのに、かなり気分が悪くなってしまった。結局、最後に付録としてついている、縁起ものの紹介が楽しかった。あとは……。