Book Maniacs

朝日文庫

歴史上の本人

南伸坊

2000年

朝日文庫

04/10/20

南伸坊といえば、おむすび頭で有名なイラストレーターであるけれども、この厳かな書は、伸坊ご本人が、歴史上の有名人物に扮してゆかりの地を旅するという、厳かにも勿体無い、やんごとなき書なのであった。
伸坊氏といえば、赤瀬川原平氏とも路上観察的交流のある、その筋の達人である。
だからこの書は、およそ推測できるとは思うが、抱腹絶倒の書なのであった。

写真上で、著名人の真似をする、というコンセプトにおいては、清水ミチコの「顔マネ」があるが、確かにそれと似てはいる。
伸坊氏の次の著などでは、かなり清水氏のコンセプトに近づいていると考えられる。

が、ここにおいては、扮装をするのが歴史上の有名人と限定され、しかも、信長や芭蕉などのゆかりの地を訪れてその人物に扮する、という手法が取られている点が意味もなく本格的だというムードを醸成している。

つまり、伸坊氏にあっては、ゆかりの地で人物に扮することでその人物になりきり、そのことによって、彼または彼女に残された謎を解くという、扮装イタコ方式とでも呼ぶべき、画期的な歴史解釈の方法なのである。

コンセプトは、分からないことは本人に訊け、である。それで、歴史上の本人なのである。

そういうわけで、伸坊氏は見事に小野東風であり、徐福であり、樋口一葉であり(意外と上出来)、シーサーであり、運慶であり、仁王様にもなってしまうのである。

発売されたのは2000年であり、私が買ったのもだいぶ前なのだが、まだ書店の棚には残っている所もあるであろう。私のような物好きならば、垂涎の書であるはずだ。

 

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