Book Maniacs

小学館文庫

逆説の日本史1
・古代黎明編

井沢元彦

1998年(文庫版初版)

04/5/22

さて、井沢元彦の古代史は、梅原猛の古代史観に基づく、従来は平安時代以降とされていた怨霊信仰が、実は古代より行なわれていた、とするもので、この古代黎明編も、その考えが全面的に繰り広げられているのであるが、それ以前に、序論において、尺貫法、よく加賀百万石というが、「石」という単位はどれだけのものか、或いは、1ヶ月の月は、なぜ月というか(暦法)、などという説明がされている部分が貴重だ。

私たちは歴史の時間にそんなことは習わなかったし、他のどの授業でもそういうことを習ったことはない。けれども、それがどれだけ重要なことか、それを理解するだけで、どれだけのことが詳らかになるか。まさに目からうろこが落ちる思いだ。

この「逆説の日本史」第1巻を読むだけで、このように目からうろこが何度も落ちる。あんまり落ちるので目が痛くなるほどだ。

尺貫法と暦法の説明部分だけで、この本は価値があるとさえ言える。

 

また日本の歴史をはじめるにあたって、いきなり「アダルトビデオの論理」だの「中日ドラゴンズの論理」などを持ち出して、「古代史といったって、何だかむつかしそうだな」と身構えるこちらをリラックスさせる手順なども、なかなかのテクニックだ。

さらに、アカデミズムへの批判がある。そしてそれこそが、「歴史には素人」である著者が、このような「大それたこと」つまり日本史を書く、ということをする理由なのだ。
「緒方パロチンの論理」と名づけるこの論理こそ、あの『旧石器捏造問題』を引き起こしたとも言えると私は思う(この本は、あの事件が起きる前に書かれている)。

学者の誰もが、あれはおかしい、と思いながらも正面きって捏造だ、とはっきり言えなかった。その病巣は深い。

 

最後、第5章に天皇陵の問題に触れられているが、ここを読むとイカリのあまり、本を引き裂きそうになる。
押えて押えて、とつとめて冷静を保ち、自分に言い聞かせながらでなくては、とても読みとおせない。

私は大学の時、かの恩師M教授に、天皇陵問題について聞かされ、その時はじめてその問題を知った。その時から20年あまり。問題は、ちっとも進展していないらしいのだ。この20年、宮内庁は何をしていたのだろう。何もしていなかったのだ。

あの時まで私は、仁徳天皇陵といえば仁徳天皇が葬られているのだろうと、ただ思っていた。だが、M教授は、決してあの古墳を仁徳天皇陵とは呼ばない。
「いいとこ仁徳陵古墳か、伝仁徳陵古墳、本来なら大山(だいせん)古墳と呼ぶべき」と言っていた。

なぜか、それはこの本を読んで下さい。

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