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PHP新書

日本美術
傑作の見方
感じ方

田中英道

2004年

04/8/8

田中英道といえば、ルネサンス美術ファンにはおなじみの名前で、レオナルドの評伝や、ミケランジェロの考察などで、海外でも評価されている、美術史家である。
詳細な研究は、各美術全集の解説などでも惜しみなくその成果を披露しておなじみ。
いっぽうで、「新しい歴史教科書を作る会」の会長を務めるというふうにプロフィールに書かれているのだが、それにちょっと引っかかる。
なぜ西洋の美術史家が?と、疑問に感じる。

それは、この本を読めばわかるのである。

私自身、学生の頃からつい最近まで西洋美術に傾倒しており、ルネサンス美術が人類最高の芸術だと信じて疑わなかった。
そのような、既に審美眼の出来上がった目は、なかなか他の価値を認めようとはしない。
しかし、その目がいったん自国の作品に向けられ、それらを改めて「発見」したらどのようなことが起こるか。

ルネサンスにも匹敵する、いや、もしかしたら凌駕さえしているかもしれないものすごい作品群が、自分の国の、ルネサンスよりももっと昔の時代に、すでに出来上がっていた。
それを「発見」した目は、何だ、ルネサンスなどより自分の国、日本の方がずっとずっと素晴らしいものを作っていたのだ。日本は、何と素晴らしい国だったのだろう、
という風に考えてしまうのだ。

西洋の、イタリア・ルネサンスが、人類最高の遺産と信じていたからこそ、このような価値転倒が起こる。
私が日本の美術に、つい最近興味を持ち始めた時に感じたこの気持ちは、おのずとナショナリズムを醸成してしまうだろう。
ナショナリズムがいけないとは言えないかもしれないが、必要以上な国家主義に陥るのは疑問である。
自国の素晴らしさは知っておいて良いだろうけれども、それと同じくらいに情けなさ、ダメさをも把握しておかなくてはならないはずだ。

閑話休題。

田中英道の紹介している日本美術の数々は、本当に素晴らしい。この本における作品のチョイスは絶妙で、はっとさせるものばかりである。
著者の作品を見出す目は、確かである。

日本の作品を、西洋のものと比較して考察しているあたりも、西洋美術家らしい記述であろう。

けれども、この人は、レオナルドのモナリザは、イザベラ・デステであると言った人でもある。写楽は北斎であると言った人でもある。

あまりにも作品を有名人に帰しすぎというか、短絡的というか、大雑把すぎるのだ。

すぐれた作品は、すぐれた才能に帰するべきという考えは、正しいとは思うが、それにしてもあまりにも簡単に決めつけすぎだ。

ただ、この癖のある記述を別にすれば、紹介されている、とくに奈良時代から鎌倉にかけての数々の彫刻作品には、純粋に圧倒される。
その表現の強さと深さには、著者ならずとも、日本のむかしの仏師の技術と精神が、いかにすぐれていたかが思われて、感動せずにはいられない。

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