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人形作家

四谷シモン 2002

講談社現代新書

(編集者、嵐山光三郎聞き取り、四谷シモン校正)

60年安保と70年安保の狭間の新宿で華開いたカウンターカルチャー「新宿文化」(勝手に名づけている)
騒乱の新宿に咲いた仇花四谷シモンの青春の記憶は、今なぜシモンなのか、と問うことさえ無為に思えるすさまじいドキュメントになっている。

あの頃の、熱い時代のうねりのまさにさなかにいた人に、また体験出来なかった不幸なすべての人に、そして人形と名のつくものに少しでも惹かれる者に捧げられる最後の供物であるだろう。

*

いつのころか、幼い子供時代だった。
どういうわけか、私の家に平凡社の雑誌「太陽」が置いてあった。
それが「太陽」の、どういうわけかその号だけが置いてあった。

そこには奇妙な、そしてあまりにも蠱惑的な人形たちのグラビアが載っていた。
人形の特集号なのだった。
そして、特集の最後のページにはほぼ等身大のルネ・マグリットの人形のわきに、白塗りをした奇妙な人物が花を片手に立っている写真が載っていた。
上半身裸のその人物のインパクトは、子供心に強烈だった。

それこそが四谷シモンで、それが多分私がシモンに遭遇した最初だった。

ルネ・マグリットの等身大の人形も、シモンが製作したものだったのだ。

 

シモンの自叙伝とも言うべき「人形作家」を読むと、「太陽」に自分の人形が紹介された、ということが書いてあり、それが作者にとってかなり大事件であったことが伺える。

以後、私は「芸術生活」という雑誌の人形愛特集でもう一度シモンの人形に遭遇した。
その本を私は自分のお金で買った。
そのころには、どういうわけか澁澤龍彦がシモンの人形を好きであることも知っていた。

もちろん新宿の赤テントでシモンが状況劇場の女形をやっている(やっていた)ことも知っていた。

あのころ、私は新宿の騒乱を、もちろん知っていたわけではない。
それなのにこの本「人形作家」に書いてある出来事が、妙に自分のあのころの知識欲とシンクロして来て不思議な感覚を持った。

シモンの作品が雑誌に紹介されたのは、いろいろな編集者と知り合いであったかららしいが、そうしたシモンの人形の載った雑誌を私は殆ど逐一買って、持っていたのだ。
本を読みながら、眩暈に似たとても不思議な気持ちがあった。
そういう意味でも、衝撃的な本だった。

私は、子供の頃から人形というものに、ある種の興味を抱いていたのだろう。
シモンの人形のような特殊な、尋常でないものには特に…

 

シモンの壮絶な少年時代に触れられなかったがそれは一読をおすすめ。
謎に包まれたシモンの裸の姿がここにある。

ひとことだけ言えば、シモンは自分の少年時代を語りながら泣いたそうだ。

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