芭蕉研究に一石を投じる?
ちはやふる奥の細道 W.C.フラナガン著 文庫版1988 新潮文庫 03/1/29 |
小林信彦の他の本は唐獅子シリーズしか読んだことがないが、この「ちはやふる」は文句のつけようのない傑作である。
芭蕉を知らない人はおまけにこの本で芭蕉を勉強出来る(ほんとか)。
「野ざらし紀行」の旅のくだりがいつのまにか落語の「野ざらし」にすりかわっているところなど特に秀逸。
「旅に病んで」の句を弟子に解説するくだりはとてもパロディとは思えない。
種証しをしては元も子もないのだけれど、この本は、W.C.フラナガン氏の著書を小林が翻訳したという体裁を取っている。
これを真に受ける人、騙される人、一杯食わされた人が続出で、とくにこの本が最初単行本で出た時には真面目に信じている人が結構いて、そのまま書評に書かれたことが、文庫のあとがきに記されている。
そして日本ではパロディという文化が育っていないのかもしれないとも著者は書いている。
私ははじめこれが新潮社の宣伝誌「波」に連載が始められた時から、俳句はロシアが起源だと主張するセルゲイ・ポポフというインチキくさい教授の名前やら、海原しおりという女性俳諧師、ワビとサビを足してワサビと言うという説明やら、サビを否定することをサビ抜きと称するとか、寿貞にジュテームとか、マグロのキャセロールなどのフレーズや、脳天気な記述にげらげらと笑い、なんて面白いんだ、と無条件で受け入れたのだった。
以降、この書は私の座右の書になったのだった。