Book Maniacs

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眩暈祈祷書
塚本邦雄

審美社 昭和48年 1200円

05/8/11

塚本邦雄氏が亡くなった。かねてより、ずっとこのコーナーにタイトルだけ上げていたこの書を、いつか掲げなければと思っていながらずるずるとしていて、この機会を逃せばまたいつになるか分からない。とにかく上げておこう。

塚本氏の書のタイトルや、内容は、パソコンのワープロソフトでは正しく綴ることは出来ない。すべてが旧かな・旧漢字である。そのむつかしい漢字を見るだけで、まさしく眩暈、と言っていい。
それは呪詛であり、呪い(まじない)である。塚本邦雄にあっては、旧かな・旧漢字を使うということが一つのスタイルであり、様式であり、表現形式であり、その枷を嵌めることによって、世界は無限に広がった。

「眩暈祈祷書」は短歌集である。

贅沢な装丁の本だ。その本を手に持った瞬間からひとつの世界を形成している。それが、塚本邦雄のあり方だった。

大工がになひくる硝子板肉のごと軋みつつ 男こそ愛の餌食

神、それより男に供ふべし聖歌隊少年の鼻翼呼吸は

堕天国のさま夕ひばりましぐらに青年うしなはれゆくばかり

割礼の前夜、霜ふる無花果樹の杜で少年同士ほほよせ

 

わりと、差し障りがなく、しかも塚本らしい官能を感じさせる表現の短歌を選んでみた。もっと際どい、エロティシズムを放出させているものもある。

短歌による、こんな官能もあるのか、と認識させられた。


筑摩書房 昭和48年 2200円

ついでに短編小説集、「連弾」。

これは各短編に繋がりがあるのか、ないのかを忘れた。というより、読んだかどうかも定かでない。

読んだとしても華麗な修辞に気を取られ、ストーリーを追い続けることが出来なかったのだろう。私の悪い癖だ…。

目次が凝っていた。

こういうディテールにまで凝るのが、塚本邦雄の本領だった。

 

なお、「眩暈祈祷書」には、著者検印がついている。

と言っても若い人には何のことだか分からないだろう。
検印は、かつて著者が一冊ずつ本を検分して、合格した本に押していた著者のハンコだ。
少し前までは、検印廃止、という断わり書きがされていたものだが、それも最近ではなくなった。
「眩暈祈祷書」は、印鑑を印刷した紙が貼ってあるという形だが、ともあれ検印がついているのは非常に珍しい。

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