Book Maniacs

My Lovely Books

幻想の肖像 澁澤龍彦
1979年 大和書房 3800円(絶版)

04/2/11

私の姉が当時「婦人公論」を読んでいた。私はその雑誌を読むともなくぱらぱらとめくっているうち、巻頭色刷りページに連載されていた、「幻想の肖像」というコラムに興味を持った。

そのコラムは、当時中学生だったか、高校生だったかの私の、まったく知らない、見たこともない不思議な西洋絵画を紹介していて、私はそれにたちまち魅了された。

それまでの私は、家にある絵画全集で、印象派絵画しか知らなかったので、西洋絵画とは印象派だけしかないものと思い込んでいた。
しかしそのコラムで紹介されていた絵画には、印象派の絵は一枚もない。その代わり、どれをとっても心ときめかさないではいられない、あまりにも魅惑的な絵ばかりがあった。
私は、西洋絵画に対する先入観をまったく覆されてしまった。

私は、姉が毎月買って来る「婦人公論」を、その連載だけを楽しみに待つようになった。

その連載で、私は澁澤龍彦の名を知ったのだった。

 

私は姉の了解を得て、「婦人公論」のそのページだけを切り抜き、絵と解説をホチキスで繋いで、自己流に本にまとめたりもした。それほど私は、そのコラムに心酔していたのだ。
(私のサイトのArtページのMy Favourite Arts 10bestsは、それに影響されたものだ)

この大和書房から発売された「幻想の肖像」は、その婦人公論の連載をまとめたもの。連載よりもだいぶ後になってから発売されたものだ。
澁澤らしく、非常に凝った装丁で、外箱は上下抜きの差し込み式。
本ごと、宝物として大事に持っていて下さい、という感じの装丁だ。

澁澤龍彦の本としては、私は「悪魔のいる文学史」に多大に影響された。それに比べれば、これは単に絵画を紹介した軽い本なのだが、澁澤との出会い、という意味合いで懐かしく、琴線に触れる思い出の本といえる。

外箱は焼け、変色している。にもかかわらず今も美しい。


扉絵は澁澤の愛した、カルロ・クリヴェリの「マグダラのマリア」(部分)。

収録されている絵は、
シモネッタ・ヴェスプッチの肖像(ピエロ・デ・コシモ)
黄金の階段(バーン・ジョーンズ)
アレゴリー(ジョバンニ・ベルリーニ)
アンテアの肖像(パルミジャニーノ)
ユディット(クラナハ)
みずからの純潔性に姦淫された若い処女(ダリ)

等 全36点。すべてカラーつき。豪華な本だった。


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