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最後の晩餐 | 聖母子と聖アンナ |  モナリザ

Leonardo Da Vinci 2

レオナルド 素描 1

有名なレオナルドの素描、人物と解剖図、サライなど。そして自画像

2017/4/22


イザベラ・デステの肖像

 

この絵を写すために細かい穴が無数にあいていたりして、しかも後世の他人の加筆も入っていて、
最悪のコンディションだという話だが、
それでもなおかつこれだけの陰影と丁寧なスケッチが今でも見られる。

喜ぶべきことだろう。

何と言ってもまっすぐ横を向いた横顔の輪郭の柔らかいながらきりっとした美しさ、
そこから流れるような眉、目、口の描写、
自然な陰影がつけられてリアルそのもの、 髪のボリューム感、
見事としか言いようがない。

 

人物の肖像画を真横から描くということは、ルネサンスの初期から行われて来た。

名作もいっぱい登場したが、レオナルドのこのデッサンにおいて、それは一応の帰結点を
見出したのではないか。

それほどに完成度の高い横顔の肖像だ。

 

レオナルド流にモデルを描き換えたと思う。

イザベラ・デステは当代有名な芸術のパトロン。ほかの画家にも肖像を描かせ、捧げさせている。

レオナルドも再三の督促で肖像の下絵だけ描いた。仕上げることは放棄したようだ。
(仕上がった肖像があったという説もある)

けれどもこの下絵だけでもすでに完成品だ。

そして顔にはレオナルドの描く人間の特徴、或いは癖がはっきりと出ていて、
まさにレオナルドそのもの、と思える。

 

優雅に組まれた両手の描写。

モナリザのもとになったという説もあるが、この手の描写を見れば、確かにそうかもと。

そして肩にわずかにかかり、ずり落ちそうな当代の衣装の再現は、さりげなくて、
当時をしのばせ、そして女性の肉付きをしっかりと表現している。

スフマートという手法を編み出した、レオナルドならではのやわらかな、そして確かな技術力を堪能できる。

 

 


ウィトルウィウス的人体図

有名なこの人体図。

人間の体は円と正方形の中にちょうど納まる理想的な神の造形物、
という思想が当時ルネサンス時代にあったようだ。

(正確なことは忘れちゃったわ)

それを具体的な円と正方形を描いてその中に人物を入れてみた。


最初見た時は、ルネサンス時代の男性は、髪がこんなに長くて
巻き毛なのが一般的だったんだなという、無関係な感想だった。

それほど逞しい男性が、全裸で両手両足を広げながら、
長髪なのが興味深かった。

レオナルドは科学的な目も持っていたから、
人間を数学的に考えるこの説に非常に興味を示したのだろう。

ルネサンスらしい人間賛歌の表現だと思っている。

子宮内の胎児の手稿


レオナルドが解剖をしていたのはよく知られたことだが、
この胎児のスケッチも有名だ。

胎児すらスケッチするという冷徹さが、
レオナルドのどこまでも限度なく続く探究心の空恐ろしさを
物語っている。


おそらく死産で生まれることのなかった赤ちゃんを描いたのだろうし、
その妊婦の身体を裂いたのだろうし、

…ということを想像すると、レオナルドのこの冷静なスケッチが、
ことのほか残酷で、レオナルドの非人間的といってもいい
所業にぎょっとする。

けれども、レオナルドにとってはこれは科学、
何でも知りたい、何でも記録しておきたいという、
人智を超えたレオナルドの尽きない欲求があったのだろう。



首の解剖図

レオナルドの解剖図が数多いのは周知のことだ。

好きだというより、やはり人体を知るという必要性のため、
公けの絵の参考にするためにも、
描き残しておかなければならなかったのだろう。

ミケランジェロにも解剖図は多く残る。


人間の絵や、彫刻をするなら、正確に人体を知るために、
解剖は必須の行為だったのかもしれない。


ただグラフィック的にちゃんと見られる素描になっている所がすごい。

解剖図には間違いも多いということだが、
なかなかに鑑賞に耐える、デザイン的にさまになっている。

間違いがあってもそんなことは重要ではないのかもしれない。

解剖図もまた、アートのひとつなのかもしれない。
   


男女の性交解剖図

これが有名な男女の性交解剖図のある手稿。

これも非常に間違いが多いということだが、性交に対して
これほど散文的な興味で描かれたものも少ないだろう。

もちろん実物を見て、または解剖をして描かれたものではないのは
当然だと思う。

いわば、想像の性交図。

男女が交わっている時、横から見て、どうしてもその肝心の部分は
見ることは出来ない。

それを解剖図で試みるという、なんともぶっ飛んだ発想。

レオナルドの興味はポルノグラフィではなく、男女がその時、
どのような状態であるかを、どうしても追求したくなったのだろう。


他のもの、自然や、人の死や、空を飛ぶ装置や、
そして人そのものへの興味と等しく、
それらと同等のフラットな目で
男女の営みをとらえているのだと思う。

ベルナルド・ディ・バンディーノ・バロンチェッリの吊し首

レオナルドの探究心は、広場に吊るされた殉教者にまで
及んだ。

首を吊るされ処刑された人物を飛んで行ってスケッチしたという
エピソードは有名だ。

レオナルドの非人間的な部分が現れているエピソードだと思うが、
やはり人の死や、人体というものに、
科学者的な目を持っていたのだろう。

冷徹ではあるが、そこまで掘り下げずにはいられなかった。

科学者でありつつ、芸術家でもあったことが、
このような行為をなさしめたのだと思う。





老人と青年

この右側の巻き毛の若者は、弟子のサライを描いたものだと
言われている。

美しい青年。

レオナルドが執着するに値する美しさ。

その見事な巻き毛と、優雅ではっきりした目鼻立ち、
その盛りの時に、その横顔をスケッチに留めている。


そして左側には対比するように老人の横顔。

青年の美しさをより強調するように、老人の、年を重ねた
老醜を描いている。


けれども私には、老人を配することによって、
美しさはいっときのもの、時はすぐに過ぎ去ってゆく、
盛りはすぐに終わってしまう、
そんな風に言っているようにも感じられるのだ。

若いころは美青年だったレオナルドが、
それを最もよく知っていたのではないだろうか。



サライの肖像


そして、サライの横顔。

上の絵より、もう少し年を経た時のものだろうか。

きわめてクールに描いてある。

けれどもやはり、ギリシャ風の男性の横顔の美を
追求していると思う。

巻き毛の見事さは変わらず、短髪で、
横顔もレオナルドらしい描線。


この青年に翻弄されつつも、手放すことが出来なかったという
レオナルド、
そのデッサンを描かずにいられなかったレオナルド、

そこにレオナルドの人間味を感じる。

その人間レオナルドの葛藤が何百年と残されていることが嬉しい。


老人の顔


そして老人を描く。

歯の抜けた、老境に差しかかった男。

迫真的な描写で老人の内面まで表現しているようだ。


油彩作品として正式に描かれた絵より、
スケッチの方が、レオナルドに関わらず、
その画家の力量が如実に現れていると思うのは私だけだろうか。

レオナルドの細やかな筆遣いが分かる素描は、見応えがある。



女性の頭部


そして女性像。

ごく荒くさらっと描かれた女性像が、あまりにも美しいので
取り上げてみた。

斜めからやや後ろに振り向いた瞬間の若い女性を、
女性の顔だけ丁寧に、あとはラフに線描程度。

それなのにこの若い女性の振り向いた表情の魅力的なこと。

このスケッチを、500年以上残しておきたくなる気持ちが良く分かる。

現在見ても色褪せておらず、みずみずしい。

このスケッチは「白貂を抱く婦人」と関連があるのかもしれない。

「岩窟の聖母」の天使のもとになった下絵だという話も。


女性の頭部


この素描はエルミタージュ美術館にある「リッタの聖母」
(マドンナ・リッタ)と関連があると言われている。

その下絵ではないかと言われている。

右にうつむき加減の顔の傾斜がよく似ているからだが、
明らかにこの素描の方がすぐれている。

マドンナ・リッタはレオナルドの絵ではないと思う。
もしくは、レオナルドが構想したが、ほかの人の手が入っていると
思われる。

レオナルド作と言うにはあまりにも「マドンナ・リッタ」は
ひどすぎる。

レオナルド本来の細やかさが分かるのはこの素描の方だと思う。



女性の頭部


この素描も、「マドンナ・リッタ」と関連があるとされている。
下絵と思われる。

この気高さを感じさせる女性の横顔は、確かに聖母を描いたもの
かもしれない。

この高貴さ、憂いと慈愛に満ちた表情。

誰か女性をモデルにして描いたものに違いないと思われるが、
レオナルドは今さら言うまでもなく、女性の肖像もこのように
気高く描いた。

素描でさえも、レオナルドは見応えがある。
むしろ素描にレオナルドの本領が発揮されている。

自画像とされるスケッチ

レオナルドの肖像として必ず使用されるこの素描。

レオナルド自身を描いているかは定かではないようだが、
いかにも老境に差しかかった科学者・芸術家の肖像といっても
おかしくない。

威厳に満ちていて、それでいて人生の苦渋もじゅうぶんに
経験したような、
そんな思いも抱かせてしまうすぐれた描写だと思う。

とくに固く結ばれた口と、もの言いたげな目が、何ごとかを
確かに我々に訴えかけている。


レオナルドは比較的恵まれた人生を歩んだように思う。

芸術家としても、科学者・技術者としても、
時の権力者に認められ、能力を発揮することが出来た。

今も名声が消えないどころか、今でも各地で話題になる。

600年も前の人間が、これほど今に至るまで
伝説としてその偉業が称えられている。

そんな人物の顔にふさわしい肖像だと思う。

 

  最後の晩餐へ モナリザ 聖母子と聖アンナ

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参照 集英社 世界美術全集 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1978年 

 

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