ドイツ・ルネサンスの巨匠デューラーは、素晴らしい油彩画や壁画のほか、水彩画にもすぐれた作品を残した。
しかし膨大な数の木版画や銅版、ドライポイントの緻密な仕事も忘れてはならない。
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この謎めいた図像に満ちた魅力的な「メランコリア」はそのデューラーの銅版の代表作。
タイトルからして、なかなか謎めいているのだが、「メランコリアT」の「T」というのが、そもそも何の事か分からない。
「T」というからには、「U」もあったのだろうか。それとも何部作かのうちのひとつなのだろうか。
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この絵の、座って考え事をしているのは、背中に羽があるところから私は単純に天使だと思っていたけれども、
渋沢龍彦が「羽根の生えた女性」と記述しているところを見ると、天使ではないらしい。いずれにしても、この人物が考え事をしているのは、タイトルの「メランコリア」から来ている。
「メランコリア」とは、憂鬱質という意味で、当時人間の性格は4つに分かれているとされており、
憂鬱質はそのひとつであった。この作品に謎めいた形で登場している一つ一つのマテリアルは、この憂鬱質を表わしているともいわれる。
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しかし、魔方陣、球体、人物が手に持ったコンパス、天秤、砂時計…
これらの魅力的なマテリアルを、それぞれ好き勝手に解釈して楽しむのもまた一興だと思う。
こういう絵は、あまり四角四面な解釈を施されて、そうですかと納得するより、
自分であれこれ考えつつ想像するところに、見る楽しみがあるように思うのだ。
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