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Fernand
Khnopff
フェルナン・クノップフ 1858-1921
愛撫Des
caresses 油彩 50.3×150 1896年 ベルギー王立美術館
この蠱惑的な絵を描いたのは、ベルギーの象徴主義の画家、フェルナン・クノップフ。
ほおを摺り寄せて男に言い寄る人獣の異形が横長の画面にぴたりと嵌り、視線が吸い寄せられる。
オイディプスとおぼしき青年のモデルは画家の妹。そして豹の姿のスフィンクスの顔も、画家の妹である。
というわけで、シスター・コンプレックス気味のこの画家には、神秘的な象徴派ならではの伝説として、近親相姦だとの噂もあった。
海の近く Pres
de la mer 紙に色鉛筆 17×44.5 1890年 個人蔵
たしかに、クノップフの絵には、異様なほど妹が登場するが、やはり噂は伝説の粋を出ないものであって、
真相は、案外と手近に適当なモデルがいなかったからではないだろうか。
*
ベルギーに生まれたクノップフは、ブリュッセルの美術アカデミーに通い、
パリに行ってモローやドラクロワに感銘を受けた。そしてのちイギリスにも渡航し、そこでラファエル前派の画家たち、
バーン・ジョーンズやロセッティ、ホルマン・ハントなどと親交を結んだという。宗教的秘密結社「薔薇十字団」の創設者(再興者)、ジョセファン・ペラダンと知り合い、
その教義に魅せられる。薔薇十字団展にも作品を発表したりもした。
クノップフの画風は、確実に、この世紀末の象徴主義に染められてゆく。
私は私自身に扉を閉ざす I lock my door upon myself
油彩 72×140 1891年 ノイエ・ピナコテーク、ミュンヘン
暗示にとんだこの魅惑的な作品には、さまざまなシンボルが登場している。
その中でテーブル?(棺とも言われる)に肘をつき、考えごとをしている女性。
手前には枯れかかった三本の紅色の百合。
彼女はヒュプノスに導かれ、自らに扉を閉ざして黄泉の世界を目指そうとしているのだろうか。
左 青い翼 1894年 彩色写真 33.2×14.5ベルギー アルベール1世図書館
中 青い翼 1894年カンバス・油彩 88.5×28.5
右 白・黒・黄金White, Black and Gold
90×30麻布・パステル、金粉 1901ベルギー王立美術館
いちど油彩で描いたものを写真に撮り、それに彩色したりしていたそうだ。
反復されつづけるテーマ。
象徴派の画家たちは、同じテーマを描き続ける画家が多かった。
これらの作品には、「私は私自身に扉を閉ざす」に登場していた眠りの擬人像、ヒュプノスが描かれている。
眠り、これもクノップフの重要なモチーフのひとつなのだろう。
女性の肖像
女の顔 Tete de femme 紙に色鉛筆
29.5×29.5 1899ころ 個人蔵
夢のように美しい女性の頭部のデッサン、これは紙に色鉛筆で描かれている。
決して大きくはないが、印象的で、見る者に陶酔的な官能を与える
女性の習作 Etude de femmes 紙に赤チョーク 12.5×8.5 1887ころ ニューヨーク、ハーン家蔵 |
グレゴワール・ルロワとともに With Gregoire Le Roy. 1889年 私の心は過去を嘆く My Heart cries for the Past. (詩人グレゴワール・ルロワに捧ぐ) |
女二人が唇を寄せ合う。鏡に映ったもう一人の女なのか、
それとも双子のもう一人なのか、あるいは幻影の姿なのか
奉納 L'offrande 1891年 紙にパステル 31.2×71.2
いくつかのバージョンがあり、写真に彩色したものもあるという。
伸ばした女性の腕をなぞるような横長の画面がとても効果的。
そして手を伸ばした先には彫像が。彫像は頭部が画面からすでにはみ出て隠され…
捧げもの The Offering 1891 彩色写真 14.6×29.3 ベルギー王立図書館
こちらが写真に彩色したもの モノクロームにわずかに色を付けている
顔をアップにしただけのバージョンも存在する
赤い唇 Les levres rouges 紙に鉛筆、色鉛筆 25.2×17.2 1897年 ブリュージュ、個人蔵 小品だが、魅惑的な女性像 唇にわずかに彩色 鉛筆の柔らかなぼかしがクノップフの独特の幻想世界を 作り上げている。 鉛筆や色鉛筆も使いようでこのようにな芸術に仕上がるものなのか |
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女の顔Woman's Head 1915 パステル ドローイング 個人蔵 ほぼ同じコンセプトの女性像 ぼかしの荒い粒子で正面を見つめる女性をとらえる 唇だけがわずかに赤い 引き込まれるような幻想的な女性像 もちろんモデルはずっと妹… |
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女性習作 Etude de femme 紙にパステル、色鉛筆、28×28 1895年ころ 個人蔵 ベルギー象徴派展の図録の表紙を飾っていた作品として 印象深かった。 正方形の紙に女性が腕を伸ばす構図が効果的、 そして女性は画面からはみ出ている 画家のデザイン感覚が存分に生かされている クノップフはこのように油彩よりもパステルや鉛筆、色鉛筆などの方が 気に入っていたようだ。 そのせいで、作品にある種の幻想的な雰囲気が醸し出されているのではないだろうか。 |
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失寵 Decheance 紙にパステル 62.5×47.5 1914年ころ ブリュッセル、個人蔵 クノップフはおおむね女性を理想的に描いていると思っていたが、 このような残酷な作品も描いていた 太りすぎて愛人から寵を失った女性の姿なのだろうか 或いはスフィンクスとのつながりのある作品なのかもしれない |
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ジョルジュ・ローデンバッハとともに━死都 Avec Georges Rodenbach. Une ville morte 紙にパステル、墨 26×16 1889年 ニューヨーク、ハーン家蔵 ローデンパッハの小説「死都ブリュージュ」に想を得て描かれたと 思われるデッサン ほんの小さな作品だが、雑誌の挿絵として描かれたようだ。 物憂げな女性の後ろに死都と称されたブリュージュの街並みが ほんのりと浮かび上がる ロマンチックなメランコリーが魅力的 |
世紀末の風景
「見捨てられた町」 Une Ville abandonnee
76×69紙に鉛筆、パステル 1904年 ベルギー王立美術館
この神秘的な風景画は、ブリュージュの町の一角を切りとって、海に浸した、架空の風景である。正面の台座も、
実際には彫刻が乗っているのを、クノップは、わざと消した。
それらによって、題名どおりの、風景でありながら幻想的な、ぞっとするほど魅惑的な異空間を作り上げていると思う。
ブリュージュの思い出 Souvenir
de Bruges.
紙にパステル 27×43.5 1904年 ニューヨーク、ハーン家蔵
幼少期に住んでいたというブリュージュの町を、小説家ローデンパッハが「死都ブリュージュ」としてよみがえらせた。
その小説に基づいて、思い出の町ブリュージュを描いたものだろうか。
パステルの質感も相まって、何気ない風景画が幻想的に見える。
ブリュージュは静寂の死の街、なのだろうか
フランドルの思い出 運河 Des souvenirs de la Flandre. Un canal
紙に鉛筆・木炭・パステル 25×41 1904年 ニューヨーク、ハーン家蔵
やはりローデンパッハの「死都ブリュージュ」に霊感をえて描かれた。
運河に堅固な建物がぼんやりと浮かび上がる。
現実の風景なのか、それとも幻想の風景なのか、もはや判然としない
ブリュージュにて 教会 A
Bruges. Une eglise
紙に鉛筆・パステル 100×122 1904年 ヴェルヴィエ美術館蔵
1904年からブリュージュのテーマで制作された作品のひとつで、ノートルダム教会内部を描く。
クノップフが描くと、何気ない風景や建物の景観もなぜか暗示的で、シンボリックで、
謎めいた雰囲気が醸し出されていて、幻想的。
これが真の象徴主義、というべきなのだろう。
思い出 Memories 1889年 127×200 厚紙にパステル ベルギー王立美術館
パステルで描かれているという。
クノップフの代表作として知られるこの作品には複数の女性が登場するが、
みな同じ女性なのだという。それは妹、マルグリットなのだろうか。
反復される、まるで棒立ちの人形のような謎めいた女性像。
テニスをした帰りでもあるのだろうか。
単なる女性たちの連なりを描いただけに見えるのに、これほどまでに暗示的で、
謎めいた雰囲気を濃厚に表現している。何かを言いたげな静寂に、引きつけられて止まない。
トリプティーク三幅対 孤独 1890-94ころ リエージュ美術館 150×43Acrasia Solitude Britomart
アクラシア(左) 孤独(中) ブリトマール(右)イギリスの詩人、エドマンド・スペンサーの「妖精の女王」に登場する神話的人物を描いた。
すべてマルグリットがモデルなのだろう。
クノップフにとって、マルグリットは理想の女性、
いや、男性とか、女性を超えた、両性具有としての理想のシンボルだったのだろう。
アクラシア、ブリトマール2幅対(もと三幅対)紙、木炭・白で加筆 各150×43
1890-94 ブリュッセル、レキュイエ画廊
上の図のモノクロームの改作
孤独、モノクロームの反復
下方のバブルの中に、女性像が描かれている
「私は私自身に扉を閉ざす」の女性かもしれない
Fairy Queen,
1897,Acrasia and Britomart1890-94 チョーク 個人蔵
反復され続ける女性像
レクイエム Requiem
写真に彩色したものだろうか
豪華な寺院の内部にマルグリットが溶け込む幻想空間
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