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鉄腕アトムベスト5 08/10/31

突然ですが、鉄腕アトム5を実施する。

鉄腕アトム。やはりこれは私の原点である。そして日本人の原風景ではなかろうか。

いろんなエピソードがありました。好きなのはやはり初期のアトムです。

 

1 赤いネコ

2 ZZZ総統

3 キリストの目

4 人工太陽球

5 十字架島

意外と簡単に決まりました。

 

1赤いネコ

一番好きです。

ヒゲオヤジ先生が、国木田独歩の「武蔵野」を朗読する導入部。

そして、上質のミステリーのように始まるストーリー展開の見事さ。

5人のまったく無関係な若者があるひとつの場所に誘導されて来た。しかしそこは廃墟だった。そして…

まるでミステリーのような謎ときの前半、さらに懐かしいような廃墟での冒険のスリル、そして後半は東京全体が動物パニックに陥る、ダイナミックなアクション。

展開も謎を絡めたストーリーも、そして、自然破壊への警告という、手塚治虫お得意の社会的な味付けも、その幕切れも、みごと。

クライマックスで、動物が東京じゅうを占拠するという悪夢のようなシチュエーションがすごくリアルで恐かった。逐一忘れられない作品です。

主人公の教授の名前が版によってY教授だったり、四足教授という名前だったりする。

幕切れに再び独歩の「武蔵野」で〆る。

 

2 ZZZ総統

これも大好きな一篇。フランス映画のような味わい。

ZZZ総統と名乗る奇怪なテロ集団が、世界のトップ政治家たちを毒ガスで再起不能に落してしまう事件が起こる。

仮面をつけたZZZ総統が一体誰なのか、ある人物にそっくりだ。彼ではないのか?…という謎のからめ方の上手さ。

初めに出て来る歌舞伎の場面が、子供心にとても印象的だった。衝撃的と言っても良かった。
事件と直接関係のないシーンなのだが、歌舞伎観劇の間にも、陰謀が画策されているという緊張感があった。とても映画的だ。

主人公ロックが気を失って、やがて目覚めるという時間の経過を、絵で示している部分が、子供の時見て、とても印象に残った。この時間処理も素晴らしかった。

そしてヒゲオヤジ先生が一計を案じて、賊に罠をしかけるのだが、それもまさに映画のよう。
幕切れの何コマかは雪が降っている窓を描いてあり、それも忘れられない。

 

3 キリストの目

手塚治虫は推理小説が好きだったと思う。

彼の漫画には、本格というか、純粋なミステリーの秀作が数多くある。そして、読者サービスを忘れなかった手塚は、後半でダイナミックなアクションに展開してゆくのが、常套だった。

この作品も、ヒゲオヤジ先生に付きつけられた謎から始まる。
教会に入った時は7人、出て行く時には6人になっていた。その謎。

そして、「キリストの目」と言い残して死んだ神父。まさにダイイング・メッセージ。

最後にその謎が解け、そして、キリストの目はすべてを見ていた、というオチは見事のひとこと。

厳密に言うと、7人から6人、という部分では論理が破綻しているのだが…、そんなことはどうでも良いのだ。

出演者も味があった。
神父役のレッド。教会の鐘つき、カシ造(グラターン?)はもちろん「ノートルダムのせむし男」カジモドから来ているキャラクター。(近年、「せむし」がNGワードになり、「ノートルダムの鐘」などと言われている)

 

4 人工太陽球

シャーロック・ホームズの子孫だというシャーロック・ホームスパンというキャラクターが出て来て、彼が(副)主人公として物語が進む。

ホームスパンはロボットが大嫌いなのだが、成り行きで、事件の捜査でアトムと行動を共にする。

人工太陽球が突然現れ、地球に災いをもたらす。誰が作り、何の目的なのか。

アトムはホームスパンの偏見といじめに耐えながら自分の役割を全うしようとする…

この物語の最後、幕切れのひとコマを、私は子供のころ、とても複雑な思いで読んだ。

それは、読むのがとても恥ずかしいほどの、いわゆる「手塚ヒューマニズム」の象徴とも言えるほどのホームスパンのセリフのコマだった。そのセリフを読むと、何となくお尻がむずがゆく感じたのだ。(ネタばれになるので詳しくは言わない)

そして、それが故に私は何度、その幕切れのひとコマを繰り返し繰り返し読んだだろう。そして、何度涙を流しただろう。

甘ったるいヒューマニズムの心地よさもまた、手塚漫画を読む醍醐味。

ホームスパンの、ラストでの姿には疑問が起こるが。

またこの作品では、途中でアトムが人工太陽に近づきすぎて体を溶かされ、足も手も、顔も溶けてしまう場面が出て来て衝撃的だった。

ひょうたんの形のようなカタワ状態になり、人工頭脳だけが生きている。目も鼻もない。こんなの、よく少年漫画で表現出来たものだ。

かりにもヒーローの主人公が、こんな姿になってしまうこともあるのか、と子供心に衝撃を感じた。

 

5 十字架島

まだ他にもいろいろ作品があると思うけれど、とりあえず印象が深くて思い出したものを挙げてみる。

これは手塚キャラクターで有名なアセチレン・ランプが活躍する一編だ。

物語のはじめではランプは服役中の囚人(確か強盗)で、仲間と脱獄をする場面から話が始まる。

この脱獄場面も映画のような迫力があって、手塚は本当に映画が好きなんだと思う。(しかもフィルム・ノワールの味わい)

ランプはワルなのだが、仲間の、半ば狂人と化したロボット学者と行動を共にしていろんな目に合ううち、心の変化が起こったのか、最後の最後でアトムを助ける。
こういう役はランプの得意とするところ。
美味しい役どころで、熱演賞ものだった。

私は子供の時、このランプの行動を読んで、悪い人、いい人、という振り分け方が必ずしも正しくないということを学んだ。

生まれた当初から悪人は悪人だと決まっているとか、悪人はいつまでも悪人のままで、いい人がずっといい人のままだとは限らないのだ、ということを。

悪人でも改心する人もいるかもしれない。いい人でもひょんなことで悪くなったりするかもしれない。
人間というものはそういう生き物だということを、手塚漫画で学んだ気がする。

 

そのほか

レンコーン大尉の苛烈な生き方が忘れられない「火星探検」では、てっきり火星には大気があるのだ、と誤解させてもらった。

ポチョムポチョム島という何だかななネーミングの「アトム赤道をゆく」は飛び込み競争をする導入部が印象的。

「植物人間」はほんの小編だが好きな作品だ。もしかして、中性的な、美しいアルソア星人を、アトムは愛していたのではないだろうか、とふと想像させる。
「星の王子様」の薔薇のエピソードをも想起させる。

「イワンの馬鹿」も好きな一編。ソ連の女流飛行士と、ロボットの交流が物悲しい。そして、そのロボットの取った行動による皮肉な幕切れ。
このタイトルが現在では問題ありとされているようだが、残念なことだ。

 

***

こうして書き出してみると、手塚治虫のストーリーづくり、ストーリー展開の上手さにいまさらながら驚くばかりだ。

それは彼が映画やミステリー小説が好きで、それらを知識として沢山蓄積していたから、そして蓄積したネタを、いかに上手に出力することが出来たか、ということだと思う。

ストーリーづくりの上手な人というのは、この出力することが上手な人、だろう。手塚治虫は、それがとんでもなく上手だった。

それだけではない。知識の蓄積の仕方も的確だった。さらに、その蓄積を遊ぶ余裕すら持っていた。

手塚の作品にはいろいろなものの影響が伺えるのは確かだが、普通なら影響はされても、それを自家薬篭中のものとして、自作にいかすことが出来る人は多くないだろう。

真に天才と言える人は、凡人には計り知れない能力を持つのだ。

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